がん治療におけるコミュニケーションギャップの例
~治る/効く~

自分の症状を正しく伝え、医師の説明を理解するために、活用してください。

がん治療におけるコミュニケーションギャップの例 ~治る/効く~ がん治療におけるコミュニケーションギャップの例 ~治る/効く~

「治る」と「効く」ということばの
意味の違いは?

冒頭の会話で主治医が「効く」ということばを使っても「治る」と言わなかったのはなぜでしょうか。
一般的に、病気を治療した結果、病気の症状がなくなってもとの状態に戻ることをあらわすときに、「治る」「治す」ということばがよく使われます。がん治療の場合、手術や放射線療法によって、今見えているすべてのがんを取り除くことができ、再発の可能性も少ないと考えられれば、「治った」と言えるかもしれません。これは「根治治療」と言われ、がんが完全になくなることを目標とした治療のことを指します。
では、「効く」ということばについてはどうでしょうか?医師は、治療に一定以上の効果を認めたときに「効く」、「効いた」と言います。でも、「一定以上の効果」って、わかりにくい表現ですね。たとえば、肺がんや胃がんなど腫瘍の形や大きさが測定できるがんでは、抗がん剤が効いたかどうかを判断する基準があります1)。CT検査の画像で、治療前と治療後のがんの大きさを比較して、30%以上小さくなっていたら、「効いた」と言います。医師が考える「一定以上の効果」は、このことを指しています。

薬が「効いている」と、
医師が言うとき

患者さんからすれば、「薬が効く=病気が治る」と期待するのは当然のことでしょう。その期待感からすると、「一定以上の効果」と「治る」ということばの間には、大きなギャップを感じるかもしれません。ですが、「一定以上の効果」を得ることは、がん治療ではとても重要なことです。
では、「一定以上の効果」があることは、患者さんにとってどのような意味を持つのでしょうか?「がんを小さくする」治療をめざす、冒頭の医師の例をもとに考えてみます。
もし、がんが少しでも小さくなれば、がんによって起こる症状が軽くなって患者さんは今より快適にすごせるようになるかもしれませんし、がんを手術によって切除できるようになるなど治療の選択肢が広がることもあります。また、もしがんがこれ以上大きくならなければ、その薬の効果を期待して使い続けることで、つらい症状の出現を抑えることができることもあるでしょう。

このように、薬に「一定以上の効果」があることは、患者さんの現在と将来の両面で、とても大きな意味を持つのです。ですから、医師から、たとえ少しでも今の治療が「効いている」と言われたときは、ぜひよいメッセージとして前向きに受け止めましょう。

あなたらしく生きること

「治る」「がんが完全になくなる」ことだけが、がん治療の目的ではありません。がん治療が進歩した今、薬に一定以上の効果を期待してがんをコントロールしながら長く元気にすごしていく、これもがんを治療するひとつの目的です。実際、仕事をしながら、趣味を楽しみながら、家族といつもの生活を送りながら、長い間がんとともに自分らしくすごしている人がたくさんいます。治療を選択するとき、治療の目的や治療による制約などを医師と相談していただいたうえで、これからの人生をあなたらしく歩んでいくことについて、考えてみてはいかがでしょうか。

  1. 固形がんの治療効果判定のための新ガイドライン(RECISTガイドライン)改訂版version 1.1ー日本語訳JCOG版 ver.1.0