前立腺がん(症状・治療法)

前立腺がんは男性がかかるがんの1位であり、近年、高齢化や食生活の変化でその患者数は増加しています。他のがんに比べると進行は比較的ゆっくりで、早期に発見し治療すれば治る可能性もあるがんではありますが、自覚症状が少なく、症状をきっかけに受診したときには、進行、転移していることが多いのが特徴です。検査をおこない確定診断後、年齢やリスク分類などをもとに治療法を選択します。前立腺がん予防のために生活習慣を改善し、50歳をすぎたら定期的にPSA検査を受けるようにしましょう。

前立腺がんとは

前立腺は男性のみに備わっている生殖器で、膀胱の真下にあり、尿道の周りを取り囲んでいます。大きさはよく「栗の実大」と表現されます。その働きは精液の一部である前立腺液を作る他、筋肉の収縮によって排尿や射精の調整をすることです。前立腺がんの多くは前立腺の一番外側に発生します。その進行は他の臓器のがんに比べると比較的ゆっくりであるため、早期に発見すれば治る可能性もあるがんです。患者さんの多くは70歳以上ですが、50歳を超える頃から増え始めるため、50代、60代であっても注意が必要です。

前立腺の構造

罹患者数の多いがん

厚生労働省と国立がん研究センターにより2022年5月に公表された「2019年の全国がん登録」の、男性の部位別罹患率をみると、男性では前立腺がんが1位でした。現在、前立腺がんの患者数は増えています。その理由としては、高齢者の人口が増えていること、動物性脂肪の多い欧米型の食事に食生活が変化していること、前立腺がんを発見するPSA検査を受ける人の増加により、見つかるがんが増えたことなどが挙げられます。

前立腺がんのステージ(病期)

前立腺がんのステージ(病期)分類は、TNM病期分類によっておこなわれます。TNM病期分類とは、「T(Tumor:腫瘍)」がんの状態、がんが前立腺の中にとどまっているか、前立腺の外側、隣の組織まで広がっているか、「N(Node:リンパ節)」近くのリンパ節(所属リンパ節)への転移があるか、「M(Metastasis:遠隔転移)」所属リンパ節以外のリンパ節や離れた臓器への転移があるか、によってがんの進行度(広がり)を分類するものです。前立腺がんのリスク分類は、TNM病期分類に加え、グリーソンスコア、PSA値を加味しておこなわれます。グリーソンスコアとは、前立腺がんの悪性度を表す病理学上の分類であり、数値が高いほど悪性度の高いがんになります。

前立腺がんの原因

前立腺がんの原因についてははっきりわかっていませんが、その危険因子として加齢、遺伝的要因、食生活などの生活習慣が知られています。

  • 年齢
    前立腺がんは加齢とともに発生率が上昇します。
  • 遺伝
    父親や兄弟、祖父に前立腺がんになった方がいる場合、前立腺がんにかかるリスクが高まることが知られています。家族性の前立腺がんは、40代から発症することもあります。
  • 食生活
    牛肉、豚肉、ミルク、チーズ、卵などの動物性脂肪食品のとりすぎは、前立腺がんのリスクを高めるとされています。

前立腺がんの症状

前立腺がんは早期には症状がほとんどありません。一番気付きやすい症状は排尿障害ですが、前立腺がんは尿道から離れている前立腺の一番外側にできやすいため、排尿障害はがんが進行してから自覚することが多いです。さらに進行して骨やリンパ節に転移すると、背中や腰の痛み、足のしびれやむくみなどが生じます。自覚症状が少ないため治療の機会を逃してしまいやすく、症状をきっかけに受診したときには、多くの患者さんでは進行や転移をしています。

尿が出にくい・頻尿・血尿

前立腺がんが大きくなり、尿道を圧迫したり、尿道に露出したりすると、排尿障害が現れます。具体的には夜中に何度もトイレに起きる、尿が放物線を描いて飛ばない、尿を出し切るまで時間がかかる、いきまないと尿を出し続けられない、などの症状があります。他にも、尿失禁、尿や精液に血が混じるなどの症状が出ることもあります。

背中や腰の痛み

がんが骨盤や腰椎などの骨に転移すると、背中や腰の痛み、足のしびれなどの症状が出てきます。がんが広がって脊髄神経を圧迫している状態であり、痛みの種類は鈍い痛みから刺すような痛みなどさまざまです。

前立腺肥大との違い

排尿障害が出やすい病気の1つに前立腺肥大があります。前立腺肥大は前立腺の病気の中で最もよくみられる良性の病気です。症状だけではなく50歳以降で起こりやすい点も前立腺がんと似ているため、検査などで見分ける必要があります。大きく異なるのは、前立腺肥大は尿道に近い部位で起こりやすいということです。そのため、比較的早期から排尿障害の症状が出るのが特徴です。

前立腺がんの検査方法

自覚症状の確認やPSA検査、直腸診、経直腸エコーをおこないます。これらの検査結果から前立腺がんが疑われる場合は、最終的な診断のため、がんが疑われる組織の一部を採取し顕微鏡でがん細胞があるかどうかを確認する「前立腺生検」をおこないます。前立腺生検では超音波の画像を見ながら、細い針を直腸や会陰部(えいんぶ:肛門と陰嚢の間)から刺して、前立腺の組織を採取します。CT、MRI、骨シンチグラフィなどの画像診断は、前立腺がんが見つかった後、がんの広がり、転移の有無を調べるためにおこないます。

PSA検査

PSAは前立腺から分泌されるたんぱく分解酵素であり、正常であれば精液中に分泌されますが、前立腺がんでは血液中に混じるようになります。PSA値は症状が出ない段階から上がるため、前立腺がんを早期に発見するために役立ちます。基準値である4.0ng/mLを超えている場合は精密検査をおこないますが、基準値を超えていても10ng/mL以下はグレーゾーンであり、様子を見ながら対応することになります。また、PSA値は前立腺肥大や前立腺炎でも上昇するため、値が高いからといって、必ずしも前立腺がんというわけではありません。前立腺がんかどうかは、生検などの他の精密検査と組み合わせて総合的に判断されます。PSA検査は自治体や会社の定期健診では必須項目ではないことも多いため、自らオプションとして希望する必要があります。

直腸診

医師が肛門から指を入れ、直腸の壁越しに前立腺に触れることで、大きさや形、硬さ、表面の状態などを調べる検査です。表面がでこぼこしていたり、硬かったり、左右非対称である場合にがんを疑います。仰向けや横向きの姿勢でおこなわれ、挿入時には潤滑剤を使用します。痔がある方は検査前に伝えておくのがよいでしょう。

経直腸エコー

肛門から超音波を発信する装置(プローブ)を入れ、前立腺の大きさや形を画像化する検査です。直腸診ではわからない部分を映しだすことができますが、ある程度がんが大きくなければ観察することができないため、この検査で早期の前立腺がんを発見することは難しいです。プローブは人差し指ほどの太さです。横向きの姿勢でおこなわれ、挿入時には潤滑剤を使用します。

画像診断

がんの広がりや転移の有無を確認するためにおこなう検査で、CT、MRI、骨シンチグラフィなどがあります。CT検査はリンパ節や前立腺から離れた臓器への転移を調べる検査、MRIはがんがある場所、浸潤の程度、リンパ節の転移の有無などを調べる検査です。骨シンチグラフィは骨への転移を調べる検査で、骨に集まりやすい放射性薬剤を注射した後に、全身を撮影します。転移がある部位にはより多くの放射性薬剤が集まり、黒く映ります。

前立腺がんの治療方法

前立腺がんの主な治療法は、監視療法、手術、放射線治療、内分泌療法、抗がん剤治療(化学療法)です。PSA値やグリーソンスコア、リスク分類、年齢、期待余命(この先どのくらい生きることができるかの見通し)、患者さんの希望などをもとに、主治医と一緒に治療法を選択します。がんが治る確率だけではなく、合併症や生活設計、経済的負担なども考慮して、主治医とよく相談することが大切です。

監視療法

監視療法とは、手術や放射線治療、抗がん剤治療などをおこなわずに、しばらくの間経過を観察していく治療法です。早期でおとなしいがんであり、治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合に選択されます。3~6ヵ月ごとにPSA検査、直腸診、1~3年ごとに前立腺生検をおこない、悪化の兆しがみられていないか、経過を見守ります。

手術(外科治療)

手術で前立腺、場合によっては周囲のリンパ節も取り除く治療法です。がんが前立腺内にとどまっており、期待余命が10年以上、低~中リスクの場合に選択されます。術後の合併症は、尿失禁、勃起障害、出血、感染などです。手術の方法には、開腹手術、腹腔鏡手術(お腹に数ヵ所穴をあけ、そこから腹腔鏡や手術器具を挿入して手術する方法)、ロボット手術(お腹に数ヵ所穴をあけ、手術用ロボットを遠隔操作して手術する方法)があります。ロボット手術は手術時間が短く、日常生活への復帰が早いというメリットがありますが、特有の合併症として視力障害が起こる可能性があります。

放射線治療

高エネルギーのX線や電子線を照射してがん細胞を傷害し、がんを小さくする治療法です。放射線治療はほぼすべての病期の人に適用され、がんが前立腺内にとどまっている場合は手術療法と同様に根治が期待できます。体の外から放射線を照射する外部照射療法と、放射線を発する線源を前立腺の組織内に挿入し、内部から放射線を照射する内部照射療法があります。手術療法に比べて身体の負担が少ない点がメリットですが、外部照射療法の場合、週5回、7~8週間かけて照射するため、治療期間が2ヵ月と長期に渡ります。また、通常分割照射と比較して、1回の線量を増やし照射回数を週3回と少なくした放射線治療の方法も広まってきています。合併症としては血尿、直腸出血、排尿障害が代表的です。
なお、前立腺がんの治療では、がんの状態にもよりますが、粒子線治療である陽子線治療、重粒子線(治療を受けられる施設は限られています)といった照射方法も保険適応になっています。

内分泌療法(ホルモン療法)

前立腺がんは、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)の刺激で増殖します。そこで、アンドロゲンの分泌や働きを妨げる薬によって前立腺がんの勢いを抑える治療法が内分泌療法です。がんの浸潤や転移により手術や放射線治療をおこなうことが難しい場合や、放射線治療の治療効果を高める目的で取り入れられています。用いる薬には皮下注射や内服薬があります。副作用は、ホットフラッシュ(のぼせやほてり、発汗など)、性機能障害、筋力低下、女性化乳房(乳房が大きくなる)などです。

抗がん剤治療

がん細胞を消滅させたり小さくしたりすることを目的としておこなう治療法で、点滴や内服薬があります。内分泌療法が効かなくなり、がん細胞が再び増殖してきたときにおこないます。治療スケジュールや副作用は薬剤により異なります。

前立腺がんの早期発見・予防

禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、運動などが、がんの予防に効果的といわれています。特に前立腺がんは生活習慣とかかわりが知られているため、まずは生活習慣の改善を始めてみましょう。現在のところ、指針として定められている検診はありませんが、50歳をすぎたら症状がなくても、定期的にPSA検査を受けることをお勧めします。また、父親や兄弟、祖父に前立腺がんになった方がいる場合は、40歳くらいからPSA検査を受け始めたほうがよいでしょう。

前立腺がんについて、詳しくは前立腺がんの症状・早期発見のページもご覧ください