膀胱がんの治療

筋層浸潤性膀胱がんの治療

治療のながれ

筋層浸潤性膀胱がんの患者さんでは、膀胱全摘除術と尿路変向術が標準治療として行われます。また、手術の前や後に薬物療法の実施も検討されます。

筋層浸潤性膀胱がんの治療のながれ
筋層浸潤性膀胱がんの治療のながれ

放射線療法を用いた膀胱温存療法

高齢の患者さんや肝臓・呼吸器・心臓などに基礎疾患があり、膀胱全摘除術の実施が適さないと考えられる場合、また患者さんが膀胱全摘除術を希望しない場合には、放射線療法に経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)、薬物療法などを組み合わせて、膀胱を残したまま治療を行う膀胱温存療法を検討することもあります。

膀胱全摘除術

膀胱全摘除術では、一般的に、膀胱のほかに男性の場合は前立腺、精のう、遠位尿管、尿道※1、女性の場合は子宮、腟壁、遠位尿管、尿道、卵巣※2を同時に摘除します。あわせて、骨盤内のリンパ節の摘除も行います。

膀胱全摘除術の摘除範囲
膀胱全摘除術の摘除範囲

従来、膀胱全摘除術の主な方法は開腹手術でしたが、近年は開腹手術よりも体への負担が少ない腹腔鏡下での膀胱全摘除術(腹腔鏡下手術)が普及しています。
また、2018年4月からはロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術(ロボット手術)も保険適用されています。

尿路変向術

膀胱全摘除術を受けた患者さんは、新たな尿の出口と尿をためておく場所を作るために、尿路変向術を受ける必要があります。
尿路変向術は、大きく分けて、尿を体外のパウチにためる「失禁型尿路変向術」と、尿を体内にためることができる「禁制型尿路変向術」の2種類があります。

尿路変向術の種類と特徴
失禁型尿路変向術 禁制型尿路変向術
尿管皮膚ろう 回腸導管 自己導尿型代用膀胱 自排尿型代用膀胱
概要
  • 尿管を直接、腹壁に固定し、体外にパウチを貼付する
尿管を直接、腹壁に固定し、体外にパウチを貼付する
  • 回腸(小腸の一部)を導管として用い、腹壁に固定し、体外にパウチを貼付する
回腸(小腸の一部)を導管として用い、腹壁に固定し、体外にパウチを貼付する
  • 腸管(主に回腸)を用いて蓄尿するパウチを作成し、導尿脚を腹壁に固定する
腸管(主に回腸)を用いて蓄尿するパウチを作成し、導尿脚を腹壁に固定する
  • 腸管(主に回腸)を用いて新たに膀胱を作成し、自己の尿道につなぎ合わせる
腸管(主に回腸)を用いて新たに膀胱を作成し、自己の尿道につなぎ合わせる
長所
  • 手術時間が短く、体への負担が少ない
  • 上部尿路の合併症の頻度が少ない
  • 手術手技が確立されており、もっとも多く行われる
  • 導尿口を有するが、体外にパウチの貼付は不要
  • 従来どおりの尿道を介した排尿が可能
短所
  • ストーマトラブル(ストーマ周囲の皮膚炎、傍ストーマヘルニア:ストーマ造設の際におなかに作った孔から小腸や大腸などが脱出し、ストーマ周囲の皮膚が盛り上がった状態など)の恐れがある
  • 体外にパウチの貼付が必要
  • 定期的に導尿が必要
  • パウチ内に結石ができる恐れがある
  • 術式が複雑で手術時間が長くなる
  • 尿道再発リスクが高い場合には選択できない
  • 尿意を感じなくなるため、おなかに力を入れ圧力(腹圧)をかけて排尿する必要がある
  • 尿失禁、排尿障害(尿が出にくい、頻尿など)の恐れがある
  • 術式が複雑で手術時間が長くなる
術後のリハビリテーション 膀胱全摘除術および尿路変向術を受けた場合は、1ヵ月程度の入院が必要となる。手術後しばらくは、造設したストーマや新しい膀胱にカテーテル(管)を入れて尿を出すが、術後2~3週目から排尿するためのリハビリテーションを行う
  • ストーマを造設した場合には、入院中にストーマの洗い方や装具のつけ方(自己導尿型代用膀胱を除く)の指導を受け、患者さん自身で排尿とストーマの管理ができるように練習を行う
  • 退院後もストーマ外来に定期的に通い、心配なことは看護師などに相談することが大切
  • 手術前と同じように尿道から尿を出すことができるが、尿意を感じないため、ある程度尿がたまった時点で腹圧をかけて排尿する練習を行う
  • 最初は新しい膀胱が膨らみにくいため、尿失禁がみられるが、パッドを使用するなどして対処しながら慣らしていく
  1. 医療情報科学研究所編:がんがみえる 第1版, メディックメディア, 2022, p461をもとに作成
  2. NPO法人キャンサーネットジャパン:膀胱がんの膀胱摘出後の排尿方法について https://www.cancernet.jp/boukougan/bladder-surgery2(2025年4月24日時点)をもとに作成

膀胱全摘除術・尿路変向術の合併症

膀胱全摘除術および尿路変向術では、手術中、手術後早期、退院後に以下の合併症が起こる可能性があります。

膀胱全摘除術・尿路変向術の合併症
起こる可能性がある合併症
手術中
  • 出血
手術後
早期
  • 腸閉塞(腸管が狭くなったり塞がっている状態)
  • 尿路・創部感染症
  • 創離開(手術後に縫合創が開いてしまった状態)            など
退院後
  • ストーマトラブル(ストーマ周囲の皮膚炎、傍ストーマヘルニア:ストーマ造設の際におなかに作った孔から小腸や大腸などが脱出し、ストーマ周囲の皮膚が盛り上がった状態など)
  • 尿管導管吻合部狭窄(尿管や腸管のつなげたところが狭くなった状態)
  • 腎機能の低下
  • 尿道結石
  • 尿路感染症
  • 代謝性合併症
  • 排尿障害
  • 性機能の障害            など

術前療法・術後療法・術前療法+術後療法

筋層浸潤性膀胱がんでは、膀胱全摘除術の前後に薬物療法の実施が検討されます。

術前療法:
膀胱全摘除術の前に薬物療法を行い、膀胱内にあるがんを小さくするとともに、膀胱周囲のリンパ節や骨盤などに転移している可能性がある目に見えない小さながん細胞(微小転移)の増殖を早期から抑えることによって、再発の遅延や再発リスクの低減が期待されます。
術後療法:
膀胱全摘除術を行っても目に見えないがん細胞が体内に残っている可能性があるため、手術後に薬物療法を行い、微小転移の増殖を抑えることによって、再発の遅延や再発リスクの低減が期待されます。

術前療法、術後療法、また、術前療法+術後療法でそれぞれ使用される薬剤が異なります。

筋層浸潤性膀胱がんの薬物療法と使用できる薬剤
筋層浸潤性膀胱がんの薬物療法 使用できる薬剤
術前療法 膀胱全摘除術の前に実施
  • 抗がん剤
術後療法 膀胱全摘除術の後に実施
  • 抗がん剤
  • 免疫チェックポイント阻害薬
術前療法

術後療法
膀胱全摘除術の前後に実施
  • 抗がん剤(術前)
  • 免疫チェックポイント阻害薬(術前・術後)