病気について

膀胱がんとは膀胱にできるがんの総称です。膀胱がんの90%以上は、膀胱の内側をおおう尿路上皮という粘膜にできる「尿路上皮がん」です1)

  1. 医療情報科学研究所編:がんがみえる 第1版, メディックメディア, 2022, p459

膀胱がんの初期症状として、血尿や頻尿、排尿時の痛み、残尿感などがみられます。血尿は80%以上の患者さんにあらわれ、痛みを伴わないことが特徴です1)

がんが進行すると、がんが尿管をふさぎ、腎臓に尿がたまることでわき腹や背中、腰の痛み、排尿時の痛み、尿が出にくくなるなどの症状があらわれることがあります。また、体重の減少や、足のむくみなどがみられることもあります。

  1. 医療情報科学研究所編:がんがみえる 第1版, メディックメディア, 2022, p457

膀胱がんを発症する危険因子として、「喫煙」、「特定の化学物質への曝露」、「膀胱内の慢性的な炎症」などがあります。

特に喫煙は膀胱がんのもっとも重要な危険因子で、喫煙者は非喫煙者に比べて、膀胱がんを発症するリスクが2~5倍高いといわれています1)

  1. 医療情報科学研究所編:病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版, メディックメディア, 2019, p273

日本では2020年に約100万人ががんと診断され、そのうち膀胱がんは約23,000人でした。男性が約17,000人でがんの部位別では12位、女性は約5,700人で20位と、膀胱がんは男性に多くみられます1)

また、2023年には約38万人ががんで死亡しており、そのうち膀胱がんによる死亡者数は約9,500人でした。男性が約6,500人でがんの部位別では12位、女性は約3,000人で15位でした2)

  1. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
    https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html(2025年4月24日時点)
  2. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
    https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html#a7(2025年4月24日時点)

膀胱がんは男性に多くみられるがんで、患者数は男性が女性の約3倍に上ります。発症頻度は男女ともに60歳前後から上昇し、特に男性では高齢になるにつれて増加します1)

また、喫煙者や、芳香族アミン類という物質を含む化学物質、染料、顔料、ペンキなどを扱う職業の方、膀胱結石などの疾患により膀胱内に慢性的な炎症がある方も、膀胱がんの発症リスクが高くなるといわれています2,3)

  1. 国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
    https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/data/dl/index.html(2025年4月24日時点)
  2. 医療情報科学研究所編:病気がみえる vol.8 腎・泌尿器 第3版, メディックメディア, 2019, p273
  3. 松島正浩ほか:日泌尿会誌, 104(4), 569, 2013

膀胱がんの生存率は、病期(ステージ)の進行とともに低下します。国内のデータによると、膀胱がんの5年実測生存率は、Ⅰ期で70.5%、Ⅱ期で46.6%、Ⅲ期で35.7%、もっとも進行したⅣ期では16.6%でした1)

生存率は、ある集団における一定期間のデータをもとに算出したもので、そのまま個人の患者さんにあてはめることはできません。また、膀胱がんの治療は日々進歩しており、過去のデータと最新の治療によるデータを単純に比較することはできません。そのため、生存率は参考の1つとして考えましょう。

  1. 国立がん研究センターがん情報サービス「院内がん登録全国集計」
    https://hbcr-survival.ganjoho.jp/graph?year=2014-2015&elapsed=5&type=c15#h-title(2025年4月24日時点)

膀胱がんは、がんを切除しても再発しやすい特徴があります。

膀胱内に以前から存在していた、がん細胞になる可能性の高い細胞が新たにがん化することや、手術前から別の部位に広がっていたがん細胞が成長することなどによって、再発すると考えられています。

膀胱がんは進行すると、リンパ節や肺、肝臓、骨などへ転移する可能性があります。

診断・検査について

膀胱がんを診断するために、まず尿検査や腹部超音波(エコー)検査、膀胱鏡検査など膀胱がんの疑いのある人を見つけるための検査(スクリーニング検査)を行います。がんが疑われる場合には、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を実施し確定診断を行います。

その後、MRI検査やCT検査などの画像検査を用いて、がんの広がりや転移を確認し、これらの結果から総合的に判断して病期(ステージ)を決定します。

膀胱鏡検査は、カメラとライトがついた内視鏡(膀胱鏡)を尿道から膀胱へ入れて、がんの有無や位置、大きさ、個数、形などを確認する検査です。膀胱内の粘膜に異常があれば、組織の一部を採取(生検)することもあります。

膀胱がんの診断と治療方針の決定に必要な検査で、通常は外来で局所麻酔を使用して行います。

経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)は、電気メスがついた内視鏡(膀胱鏡)を尿道から膀胱へ入れて、がんとがんの基部(がんの発生源)を含む筋層を切除し、がんの進行度を調べる検査です。切除したがんの組織を顕微鏡で詳しく調べ確定診断を行い、治療方針を決定します。

確定診断とあわせてがんの切除も行うことから、診断と治療を兼ねてほぼすべての膀胱がんの患者さんに実施されます。数日から1週間程度の入院が必要です。

がんの病期はがんの進行度を示すものです。膀胱がんは0期(0a期、0is期)、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期(ⅢA期、ⅢB期)、Ⅳ期(ⅣA期、ⅣB期)に分類され、もっとも進行した状態はⅣB期です。

膀胱がんの病期は、「深達度(T)」、「リンパ節への転移(N)」、「遠隔転移(M)」の3つの項目をもとに決まります。

治療について

膀胱がんの治療方針は、がんの病期(ステージ)やリスク分類に応じた標準治療を基本として、患者さんの希望や生活環境、年齢や全身状態なども考慮しながら、主治医と話し合って決めていきます。

膀胱がんの治療法には「経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)」、「膀胱内注入療法」、「膀胱全摘除術・尿路変向術」、「薬物療法」、「放射線療法」などがあります。

膀胱がんの病期(進行度)ごとに最適な治療方針(標準治療)があります。主に、0期・Ⅰ期(筋層非浸潤性)では経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)±膀胱内注入療法、Ⅱ期・Ⅲ期(筋層浸潤性)では膀胱全摘除術±その前後の薬物療法、Ⅳ期(転移性)では薬物療法が検討されます。

膀胱内注入療法は、膀胱がんの再発や進展を予防するために、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)後に尿道からカテーテルを通して膀胱内に抗がん剤または結核予防ワクチンとしても利用されるBCG(カルメット・ゲラン桿菌)を注入する治療法です。がんの大きさや浸潤の深さ、悪性度などにより再発と進展の起こりやすさを判断して、使用する薬剤や投与スケジュールを検討します。

BCG注入療法とは、子供の頃に受ける結核予防ワクチンと同じBCG(カルメット・ゲラン桿菌)を膀胱内に注入する治療法です。BCGにはがん細胞を攻撃する免疫力を強める作用があり、膀胱がんに対する直接的な効果だけでなく、免疫系を活性化させることによる再発予防効果も期待されます。

膀胱全摘除術は膀胱をすべて取り除く手術です。一般的に、膀胱のほかに男性の場合は前立腺、精のう、遠位尿管、尿道※1、女性の場合は子宮、腟壁、遠位尿管、尿道、卵巣※2を同時に摘除します。

従来、膀胱全摘除術の主な方法は開腹手術でしたが、近年は開腹手術よりも体への負担が少ない腹腔鏡下での膀胱全摘除術(腹腔鏡下手術)が普及しています。また、2018年4月からはロボット支援腹腔鏡下膀胱全摘除術(ロボット手術)も保険適用されています。

膀胱全摘除術では膀胱を取り除くため、新たな尿の出口と尿をためておく場所を作る尿路変向術もあわせて行われます。

  1. 尿道の再発リスクが高い場合に摘除
  2. 必要に応じて摘除

尿路変向術は、膀胱全摘除術を受けた患者さんが、新たな尿の出口と尿をためておく場所を作るために行われる手術です。大きく分けて、尿を体外のストーマ装具(パウチ)にためる「失禁型尿路変向術」と、尿を体内にためることができる「禁制型尿路変向術」の2種類があります。

薬剤を投与して、がんの増殖を抑えたり、成長を遅らせたりする治療法です。薬物療法は、筋層非浸潤性膀胱がんに対する膀胱内注入療法として、筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱全摘除術の前後、また転移性膀胱がんに対して行われます。

現在使用できる薬剤の種類としては、BCG(カルメット・ゲラン桿菌)、抗がん剤、免疫チェックポイント阻害薬、抗体薬物複合体(ADC)があります。がんの状態や腎臓の機能などによって使用される薬剤が異なります。

膀胱全摘除術の前に膀胱内のがんを小さくするとともに、膀胱周囲のリンパ節や骨盤などに転移している可能性がある目に見えない小さながん細胞の増殖を早期から抑えるために、薬物療法を行うことがあります。これにより、再発リスクの低減や再発を遅らせることが期待されます。

膀胱全摘除術を行っても目に見えない小さながん細胞が体内に残っている可能性があるため、これらのがん細胞の増殖を抑えるために、手術後に薬物療法を行うことがあります。これにより、再発リスクの低減や再発を遅らせることが期待されます。

抗がん剤は細胞傷害性抗がん剤ともよばれ、がん細胞を直接攻撃してがん細胞の増殖を抑えます。しかし、がん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を与えることがあります。

副作用としては、貧血、好中球減少、白血球減少、血小板減少、食欲減退、吐き気、嘔吐、腎機能障害などが起こることがあります。

免疫チェックポイント阻害薬はがん細胞を直接攻撃するのではなく、本来の免疫機能が正常にはたらき、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようにする薬剤です。

副作用としては、甲状腺機能障害(低下/亢進)、下痢、吐き気、疲労、貧血、好中球減少、血小板減少、無力症、食欲減退、関節痛、そう痒症、発疹、高血圧、間質性肺疾患などが起こることがあります。

ADCは特定のタンパク質に結合する機能をもつ抗体に、薬物をつなげたものです。

ADCの抗体部分が膀胱がん細胞上に存在する特定のタンパク質に結合し、がん細胞内に取り込まれます。その後、抗体部分から切り離された薬物ががん細胞を攻撃し、その増殖を抑えます。

副作用としては、末梢性ニューロパチー(手足のしびれ、筋力の低下)、脱毛症、そう痒症、下痢、吐き気、疲労、体重減少、無力症、食欲減退、味覚不全、発疹、皮膚乾燥、肝機能障害などが起こることがあります。

放射線療法はがんに放射線をあてる(照射する)治療法です。

筋層浸潤性膀胱がんでは、高齢や基礎疾患などの理由で膀胱全摘除術が難しい場合や、患者さんが膀胱全摘除術を希望しない場合には、放射線療法に経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)や薬物療法などを組み合わせて、膀胱を残したまま治療を行う膀胱温存療法を検討することもあります。

転移性膀胱がんでは、がんの進行による膀胱出血や骨転移による痛みなどの症状を和らげるために放射線療法を行うことがあります。

筋層浸潤性膀胱がんでは膀胱全摘除術が標準治療とされていますが、高齢や基礎疾患などの理由で膀胱全摘除術が難しい場合や、患者さんが膀胱全摘除術を希望しない場合には、放射線療法に経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)や薬物療法などを組み合わせて、膀胱を残したまま治療を行う膀胱温存療法を検討することもあります。ただし、膀胱温存療法は標準治療とは異なるため、治療のメリット・デメリットを十分に理解し、主治医としっかり話し合ったうえで検討することが重要です。

日常生活について

がんの治療に関わる検査費、入院費、手術、放射線療法、薬物療法などの費用は公的医療保険が適用されます。また、毎月の治療費が一定以上の高額になった場合は、高額療養費制度を利用して、基準を超えた分が戻ってくることがあります。

お金に関する相談は、加入している健康保険組合や市区町村の窓口で受けられます。

もし、どこに相談したらよいかわからない場合は、全国のがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院などにある「がん相談支援センター」に相談するとよいでしょう。がん相談支援センターは、その病院に通院していない方でも利用可能です。

がんと診断され、治療を受けることになった場合、仕事を続けられるか不安になることがあるかもしれません。しかし、近年はがんの治療と仕事を両立できる環境が整いつつあります。

一定期間入院が必要な治療もありますが、有給休暇や傷病休暇、休職制度などを活用し、治療が一段落した後には仕事に復帰することも十分に可能です。

治療費に関する経済的な支えという点でも、仕事を続けることは重要です。仕事と治療の両立については、職場の上司や人事部門、または全国のがん診療連携拠点病院や地域がん診療病院などにある「がん相談支援センター」に相談することができます。がん相談支援センターは、その病院に通院していない方でも利用可能です。

適度な運動は、体力の維持・回復を助け、気分転換にもなります。

主治医から運動の許可が出た場合、最初はトイレに行く、入浴をする、簡単な家事をするなどの日常的な動きから始めてみましょう。自分の体調に合わせて無理のないペースで継続的に行うことが大切です。

膀胱全摘除術で膀胱を取り除くと、従来の排泄経路では尿を外に出せなくなります。そのため、尿路変向術によって新たに尿の出口を作ります。回腸を使って作成した新しい尿の出口を「ストーマ」とよびます。

ストーマをもつ方を「オストメイト」といいます。

尿路変向術について、さらに詳しい情報は以下のページをご覧ください。

「オストメイト」とは、ストーマ(人工膀胱)をもつ方を指します。

外出先でストーマ装具(パウチ)の交換ができる設備が整ったトイレはオストメイト対応トイレといい、トイレにはオストメイトマークが表示されています。

ストーマ装具(パウチ)は定期的に交換する必要があります。交換する間隔は装具の種類によりますが、3~4日おき、週2回の交換が一般的です。基本的には、入浴後に新しい装具に交換します。

入浴の際には装具を付けたままで湯船に浸かることができますが、食後すぐの入浴は避け、入浴前に排泄処理をしておくとよいでしょう。寝る前に排泄物を処理して装具を空にしておくと、安心して眠ることができます。