がん治療におけるコミュニケーションギャップの例
~先進医療~
「先進医療」は、保険診療として認められていない医療技術で、保険の対象とするかどうか評価が必要であると厚生労働大臣が定めた治療法です。ここでは、先進医療の位置づけ、考え方、費用負担などについて、説明するとともに、がんに対する先進医療の例についてご紹介します。
先進医療について、まず知って欲しいこと
進歩し続けているがん治療の中でも、先進医療と聞くと、最先端で効果に優れているというイメージがあるのではないでしょうか。そして、多少のお金がかかってもその治療にかけてみたいという患者さんもいらっしゃるでしょう。
先進医療とは、まだ有効性や安全性などの評価が定まっていない新しい医療技術のうち、これから保険適用の対象にするかどうかの評価をおこなう医療技術として、厚生労働省が指定したものです。
現時点では、十分な有効性や安全性などの情報が得られていない治療のため、高度な技術レベル・施設基準を満たすと認められた医療機関だけが実施しています。誰でも受けることができるわけではなく、患者さんの病態に合った先進医療があり、患者さんが希望し、かつ医師がその必要性と合理性を認めた場合のみに限られます。先進医療自体の費用は高度な技術を用いるため高額であることが多く、さらに健康保険が適用されないため、高額な費用を自己負担する必要がありますが、同時に行われる診察、診断、検査、投薬などの先進医療以外の診療には健康保険が適用されます(いわゆる混合診療)。混合診療は、原則として認められていませんが、先進医療は、評価を実施するものとして、保険外併用療養費制度で、例外として認められています。
生命保険会社が設定している医療保険の「先進医療特約」は、この先進医療を受けた場合の医療費負担をサポートすることを目的としています。
先進医療は用いる製品が未承認、適応外かどうかによって
「先進医療A」と「先進医療B」に分類されている
先進医療の対象となる医療技術は「先進医療A」と「先進医療B」に分類されており、令和8年3月1日現在で下記の種類が定められています。
- 第2項先進医療【先進医療A】:27種類
- 第3項先進医療【先進医療B】:42種類
先進医療Aと先進医療Bの対象となる医療技術の概要は以下のとおりです。
先進医療A
- ・未承認、適応外の医薬品、医療機器、再生医療等製品を使用しない医療技術
- ・未承認、適応外の体外診断薬(臨床検査薬)を使用する医療技術のうち、
その実施による人体への影響がきわめて小さいもの
先進医療B
- ・未承認、適応外の医薬品、医療機器、再生医療等製品を使用した医療技術
- ・その医療技術の安全性や有効性を考慮し、その実施にあたって実施環境、
技術の効果などについて特に重点的な観察・評価が必要と判断されるもの
先進医療と最新治療はどう違うのか
現在、一般的におこなわれているがん治療は、多くの患者さんが参加した臨床試験で有効性と安全性が検証された「科学的根拠がある」治療として健康保険が適用されています。
一方で、最新治療とうたわれている治療の中には、有効性と安全性が科学的に検証されておらず、健康保険が適用されないものが、数多く存在します。先進医療とは、新しい治療法のうち、これから保険適用の対象にするかどうかの評価をおこなう医療技術として、厚生労働省が指定したものです。先進医療自体は自費ですが、その他の診療については、保険適用となる(混合診療)など、全ての診療が全額自己負担となる、自由診療の最新治療とは異なります。厚生労働省のホームページには、令和8年3月1日現在69種類の先進医療技術の名前と概要および、各先進医療を実施している医療機関一覧が公開されており(令和8年3月17日更新)、先進医療はちまたに溢れる最新治療より、厳格な管理がおこなわれています。しかし、先進医療として指定されているからといって、新しい標準治療になるとは限らないので、注意が必要です。
がんに対する先進医療の例
がんの適応症で承認されている先進医療技術の例をいくつか紹介します。
先進医療Aの例
頭頚部がん、肺がん、消化管(食道、胃・腸など)がん、肝臓がん、膀胱がん、乳がんや卵巣がんなどに対する陽子線治療
がんの病巣に放射線を照射してがん細胞を破壊する治療法
卵巣がん、卵管がんなどに対する腹腔鏡下卵巣がん手術
腹部に小さな穴を開けて、専用の手術器具を用いて卵巣・卵管等を摘出する非開腹手術
先進医療Bの例
早期胃がんに対する腹腔鏡下センチネルリンパ節生検
腹部に小さな穴を開けて、専用の手術器具を挿入し、がん細胞が最初に到達するリンパ節への転移あり・なしによって、切除の範囲を変更する非開腹手術
肝細胞がんに対する不可逆電気穿孔法(IRE)
がん病巣の周囲に電極針を刺し、高圧電流を流してがん細胞に穴を開けて破壊する治療法
子宮頸がんに対する免疫療法
子宮頸部からがん組織を切除し、その中に集まっている特殊なリンパ球(がん細胞を認識し、攻撃する免疫細胞)を体外で培養し、再度患者の体内に点滴などにより注入する治療法
【費用について】
先進医療は保険適応外の医療技術であり、先進医療にかかわる費用※1は患者が全額自己負担します。先進医療のがん治療では、数十~数百万円かかります※2。
※1 先進医療にかかわる費用以外で、通常の治療と共通する診察、検査、投薬、入院料などの費用は、一般の保険診療と同様に扱われます。
※2 令和6年度実績報告(令和6年6月30日時点)において、先進医療におけるがん治療の金額は平均約170万円でした。
陽子線治療・重粒子線治療について
「陽子線治療」と「重粒子線治療」は、それぞれ、一部のがん※3について、【保険適用の可能性あり】※4とされていて、多く患者さんが、保険適用として、治療を受けています。その対象に含まれないがんにおいて、先進医療として評価が行われています。
一部のがんで標準治療となっていることもあり、他のがんに対しても、有効かつ安全であることが期待されています。いずれも放射線治療の一つで、従来の放射線治療で使用するエックス線やガンマ線などの「光子線」ではなく、「粒子線」を病巣にピンポイントに照射してがん細胞を破壊する医療技術です*。令和6年7月1日~令和7年6月30日までで、陽子線治療は739件、重粒子線治療は303件実施されています。
*放射線は電磁放射線(光子線)と粒子放射線(粒子線)の2種類に大きく分けられます。粒子線は原子を構成する陽子(水素イオン)や重粒子(炭素イオン)などを加速させたビーム(粒子の流れ)のことです。
※3 一部のがんは以下のとおり
陽子線【保険適用の可能性あり】
小児の限局性の固形悪性腫瘍、手術による根治的な治療法が困難である限局性の骨軟部腫瘍、頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、手術による根治的な治療法が困難である肝細胞がん(長径4cm以上のものに限る)、手術による根治的な治療法が困難である肝内胆管がん、手術による根治的な治療法が困難である局所進行性膵がん、手術による根治的な治療法が困難である局所大腸がん(手術後に再発したものに限る)または限局性および局所進行性前立腺がん(転移を有するものを除く)
重粒子線【保険適用の可能性あり】
手術による根治的な治療法が困難である限局性の骨軟部腫瘍、頭頸部悪性腫瘍(口腔・咽喉頭の扁平上皮がんを除く)、手術による根治的な治療法が困難である肝細胞がん(長径4cm以上のものに限る)、手術による根治的な治療法が困難である肝内胆管がん、手術による根治的な治療法が困難である局所進行性膵がん、手術による根治的な治療法が困難である局所大腸がん(手術後に再発したものに限る)、手術による根治的な治療法が困難である局所進行性子宮頸部腺がんまたは限局性および局所進行性前立腺がん(転移を有するものを除く)
※4 当該がん種のうち、特定の医学的状況において、公的医療保険適用の可能性があるもの。当該がん種であっても、適用にならない場合があります。
陽子線治療の特徴
エックス線などの従来の放射線を体に照射すると、体の表面近くで効果が最大となり、がんの病巣に達した後、エネルギーを徐々に減らしながら体を通り抜けます。そのため、病巣の奥にある正常な組織や臓器にも影響が生じてしまいます。一方、陽子線は、病巣の深さに合わせた設定で照射すると、病巣の深さに達したときに最大の効果を発揮し、病巣の奥では、エネルギーが大きく減衰します。つまり、陽子線治療はがん病巣を集中的に狙いうつことができ、照射範囲が広い従来の放射線治療に比べ、正常な組織や臓器への影響を少なくすることができるというメリットがあります。
重粒子治療の特徴
重粒子治療は陽子線治療と同じく、ターゲットのがん病巣の位置に集中して照射できるため、周辺正常組織への影響を抑えられるという特長を持っています。しかし、がん細胞の殺傷能力は、陽電子線がX線やガンマ線と同程度であるのに対し、重粒子線はそれらよりも2~3倍ほど高いため、従来の放射線療法が効きにくいがんへの効果も期待できるとともに、少ない照射回数で治療を短期間に終えることが可能とされています。
先進医療の有効性について
「先進医療」というと、従来の治療法よりも先進的で“優れている”イメージを持たれるかもしれませんが、必ずしも先進医療のほうが優れているわけではありません。
先進医療は、新たに開発された研究段階の治療法で、あくまでも将来的に保険診療の対象にすべきかどうかを検証している医療技術なのです。
先進医療を受けるには、一般的な保険診療を受けるなかで、患者さんが先進医療を希望し、医師がその必要性と合理性を認める必要があります。さらに、治療内容や費用などについて、医療機関から説明を受け、患者さんが十分に納得したうえで、同意書に署名してから治療を受けることになります。
先進医療は医療費控除を受けられます
先進医療自体の費用は全額自己負担となり「高額療養費制度」を使うことはできませんが、医療費控除は受けることができます。先進医療を受けた場合、先進医療の技術料、通常の治療と共通する部分についての一部負担金、食事についての標準負担額などの金額が記載された領収書が発行されます。この領収書は、税金の医療費控除を受ける場合に必要となりますので、大切に保管しておきましょう。
医師にあなたの希望を知ってもらうことが大事
医師は有効性や安全性が確立している標準治療を最初におすすめします。しかし、患者さんの希望を大切にして患者さんと一緒に治療法を決定したいと考えています。治療法について悩んだときは、あなたが治療に何を求めているかを医師に話して相談してみましょう。あなたの希望を整理するときに、「わたしらしいがん治療ノート」が役に立ちます。医師と話し合い、デメリットについても十分理解したうえで先進医療を希望するときには、以下の情報も参考にしてみてください。
各先進医療の概要とそれぞれを実施している医療機関の情報は厚生労働省のwebサイトに掲載されています。
- 参考
-
- 厚生労働省
- 第14回先進医療技術審査部会
- 厚生労働省
- 厚生労働省
- 国立がん研究センター東病院
- 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構
- 国立がん研究センター
- 監修
- 国立がん研究センター がん対策情報センター本部 副本部長
若尾 文彦 先生 - 更新月
- 2026年6月