がん患者さんが障害年金を受給するときの
条件・申請方法を知ろう
年金というと、原則65歳から受け取れる老齢年金を思い浮かべる方が多いと思いますが、現役世代ががんやその治療の影響で働くことができなくなった、自分で身の回りのことができなくなったとき、その生活を支えるために「障害年金」を受け取れる場合があります。ここでは、障害年金はどのようなときに受給できるのか、受給の金額、申請の手続きなどについてご紹介します。
1. 障害年金とは
障害年金とは、公的年金に加入している現役世代が病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、支給される公的年金です。
利用できるケース
支給の対象は、原則として障害の原因となった傷病の初診日から1年6カ月経過した時点で障害の状態にあること、公的年金制度に加入していること、保険料納付要件を満たしている場合です。「障害の状態」とは、眼や耳、手足など身体の機能に障害があるだけでなく、長期療養が必要ながんや心疾患などの病気、あるいは精神の障害により、仕事や生活が著しい制限を受ける状態も含まれます。がんの場合、人工肛門の造設など身体の機能に著しい影響が生じている状態、あるいは、がんそのものの影響やがん治療の副作用で仕事が制限されたり、介助が必要な状態などでも障害年金を申請することができます。
がんの初診日から1年6ヶ月以内でも申請できるケース
前述したように障害の状態は、原則的に、がんなど障害の原因となった傷病の初診日から1年6カ月経過した時点の状態で判断されます。ただし、膀胱がんで新膀胱を造設したり、喉頭がんで喉頭を全摘出した場合は、造設日や摘出日が障害認定日になります(表)。
| 身体状況 | 障害認定日 |
|---|---|
| 人工肛門の造設、尿路変更術 | 造設日または手術日から6カ月を経過した日 |
| 新膀胱を造設した場合 | 造設日 |
| 喉頭全摘出 | 全摘出した日 |
| 切断または離断による肢体の障害 在宅酸素療法を行っている場合 |
在宅酸素療法の開始日 |
| 治療の副作用による全身衰弱や 著しい倦怠感または機能の障害 |
初診日から1年6カ月 |
日本年金機構 障害認定基準(令和4年4月1日改正版)より
2. 受給資格がある方
国民年金、または厚生年金に加入している人
3. 受給条件
障害年金を受給するには以下の3つの条件を満たす必要があります。
①国民年金または厚生年金に加入している間に、障害の原因となった病気やケガについて初めて医師の診療を受けた日(初診日)があること
②一定の障害の状態にあること
障害の状態が、障害認定日に、国民年金の場合は1級から2級、厚生年金の場合は1級から3級のいずれかの状態であること。
障害の等級区分について
障害年金は、障害の程度に応じて1級から3級まで3つの等級※で区分されています。
障害が最も重い1級は、他人の介助を受けなければ日常生活のことがほとんどできない障害の状態を指します。例えば、身の回りことはかろうじてできるものの、それ以上の活動はできない方や活動を制限されている方、入院や在宅介護を必要とし、活動の範囲はベッド周辺に限られるような方が1級に相当します。
2級は、必ずしも他人の助けを借りる必要はなくても、日常生活はきわめて困難で、労働によって収入を得ることができないほどの障害の状態を指します。例えば、家庭内で軽食をつくるなどの軽い活動はできても、それ以上重い活動はできない方や活動を制限されている方、入院や在宅で、活動の範囲が屋内に限られるような方が2級に相当します。
3級は、労働が著しく制限されている状態を指します。歩行や身の回りのことなど日常生活上の支障はほとんどないが、仕事の内容や量を制限されている方が3級に相当します。なお、3級でも障害年金が受給できるのは厚生年金の加入者のみです。
これ以外に、初診日から5年以内に傷病が治り、3級の障害よりやや程度の軽い障害が残ったときに一時金として「障害手当金」を支給される場合があります。
※ 身体障害者手帳の等級とは異なります
③保険料が納付されていること
保険料の納付について
初診日のある月の前々月までの年金の被保険者期間で、保険料納付済期間と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あること。
障害年金の受給条件の詳細については日本年金機構の「障害年金ガイド」をご覧ください。
https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-2.pdf
4. 受給金額
障害基礎年金(国民年金)の場合
| 1級 1,039,625 円 + 子の加算 |
2級 831,700円 + 子の加算 |
|---|---|
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子の加算 第1子・第2子 各239,300円 第3子以降 各79,800円 |
|
障害厚生年金(厚生年金)の場合
| 1級 | (報酬比例の年金額) × 1.25 + 〔配偶者の加給年金額(239,300円)〕※ |
|---|---|
| 2級 | (報酬比例の年金額) + 〔配偶者の加給年金額(239,300円)〕※ |
| 3級 | (報酬比例の年金額) 最低保障額 623,800円 |
| 障害手当金 | (報酬比例の年金額)最低保障額 1,247,600円 |
※ その方に生計を維持されている65歳未満の配偶者がいるときに加算されます。
過去の厚生年金の納付額や障害の重さによって金額が変わります。
報酬比例の年金額の計算式
障害厚生年金の年金額は、厚生年金加入期間中の標準報酬額と加入期間で算出され、「報酬比例の年金額」と言われます。1級は報酬比例の年金額の1.25倍、2級は報酬比例の年金額が支給され、65歳未満の配偶者がいる場合は239,300円が加算されます。
報酬比例の年金額は、平成15年3月以前(A)と平成15年4月以降(B)で計算式が異なり、AとBで別々に算出した金額を合算したものになります。
A:平成15年3月以前の加入期間の金額
平均標準報酬月額※1 X 7.125/1000 X 平成15年3月までの加入期間の月数※3
B:平成15年4月以降の加入期間の金額
平均標準報酬月額※2 X 5.481/1000 X 平成15年4月までの加入期間の月数※3
※1 平成15年3月以前の標準報酬月額※4の総額を、平成15年3月以前の加入期間で割って得た額
※2 平成15年4月以降の標準報酬月額と、標準賞与額※5の総額を平成15年4月以降の加入期間で割って得た額
※3 加入期間の合計が、300月(25年)未満の場合は、300月とみなして計算します。
また、障害認定日がある月以降の加入期間は年金額計算の基礎となりません。
※4 被保険者が受け取る給与を一定の幅で区分した報酬月額に当てはめて決定した額。厚生年金では1等級(8万8千円)から32等級(65万円)までの32等級に分かれています。
※5 実際の税引き前の賞与の額から1千円未満の端数を切り捨てたもので、支給1回(同じ月に2回以上支給されたときは合算)につき、150万円が上限となります。
5. 受給期間
障害が基準に該当している期間(次回の障害年金の更新まで)
6. 申請方法
年金請求書に記入し、以下の必要書類を用意します。
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年金請求書
お近くの市町村役場、または年金事務所、街角の年金相談センターの窓口に備え付けてあります※。国民年金と厚生年金で様式が異なることに注意しましょう。
<その他の必要書類>
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「診断書」(所定の様式あり)
医療機関に診断書の作成を依頼します。 -
「受診状況等証明書」※
初診時の医療機関と診断書を作成した医療機関が異なる場合、初診日の確認のために、一番初めに受診した医療機関に作成を依頼します。 -
「病歴・就労状況等申立書」※
障害状態を確認するための補足資料 - その他必要書類(年金手帳、戸籍謄本、受取先金融機関の通帳、印鑑など)
※ 日本年金機構の公式サイトからダウンロードも可能です。
提出先(窓口)
年金請求書に記入したら、その他必要書類と一緒に窓口に提出します。提出先は、障害基礎年金(国民年金)を受けられるときはお近くの市役所、区役所あるいは町村役場の窓口※、障害厚生年金(厚生年金)を受けられるときはお近くの年金事務所または街角の年金相談センターの窓口になります。
年金請求書の提出後、日本年金機構で障害の状態の認定など支給要件の審査が行われます。支給決定後、「年金決定通知書」と「年金証書」が申請者に送付されます。年金請求書の提出から年金決定通知書・年金証書が届くまでに3カ月程度かかり、その後1~2カ月で年金の振り込みが始まります。
※ 年金事務所または街角の年金相談センターでも手続きができます。
7. 相談窓口
患者さんやご家族は、がんの疑いがあると言われたとき、診断から治療、その後の療養生活、さらには社会復帰と、さまざまなタイミングや状況で疑問や不安などを感じることが多いと思います。全国には、治療で不安なこと、痛みやつらさ、治療費のことなど、がんに関するさまざまな相談に対応する「がん相談支援センター」が、「がん診療連携拠点病院」や「小児がん拠点病院」「地域がん診療病院」に設置されており、病院によっては「患者サポートセンター」や「がん診療連携課」などと呼ばれることもあります。これらの窓口では、がんについて詳しい看護師や、ソーシャルワーカーなどが相談を受けており、どなたでも無料・匿名で主に面談や電話で相談することができます。
- 更新月
- 2025年10月
よくある質問
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障害年金は、本人、または委任状があれば本人の家族や社会保険労務士などが代理人となり、申請することも可能です。
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障害年金は、永久認定されない限り、1年から5年ごとに更新手続きが必要です。更新手続きを怠ると支給が中断されるため、支給の継続には必ず更新手続きをしましょう。更新手続きは通常、診断書を提出するだけでできます。
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がん患者が障害年金を申請する際は、本人が作成する「病歴・就労状況等申立書」と主治医が作成する「診断書」が重要です。これらの書類で、がんによって生じた障害により就労にどのくらい影響が出ているか、具体的な体験やエピソードを盛り込みながら示す必要があります。仕事上の支障だけではなく、それを裏付けるような、日常生活で不便に感じているエピソードも具体的に盛り込むのがポイントです。
病状の悪化や倦怠感などのため気力が奪われ、いざ障害状態になったときに申請手続きができないケースもあります。障害状態に該当すると思われたら、早めに障害年金に詳しい社会保険労務士、がん相談支援センター、年金事務所などに相談してみるのがおすすめです。同じ疾患で障害厚生年金と傷病手当金を重複して受給することはできない点にも注意が必要です。