肺がん(症状・治療法)

肺がんは、2021年の部位別がん死亡数の1位であり、特に40代以降の男性に多くみられます。このページでは、肺がんの種類やステージ、原因、症状、治療法、早期発見のためにおこなわれる検査について掲載しています。肺がんは無症状の場合もあり、診断時には病状が進行していることも少なくありません。早期発見のために、40歳以上の方は性別にかかわらず年に1回の肺がん検診を受けましょう。

肺がんとは?

肺のはたらきは、呼吸により身体に酸素を取り込み、不要な二酸化炭素を排出することです。口や鼻から吸った空気の通り道である気管は、気管支として左右に分かれて枝分かれを繰り返し、その先端付近にある肺胞という小さな袋で酸素と二酸化炭素の交換がおこなわれています。肺がんは、何らかの原因により気管支や肺胞の細胞ががん化したものです。2019年の部位別がん罹患数では2位、2021年の部位別がん死亡数では1位であり、特に40代以降の男性に多くみられるがんです。

肺がんの種類

肺がんは10種類以上に分けられていますが、頻度の高いものは、多い順に腺がん、扁平上皮がん、小細胞がん、大細胞がんの4種類です。病気の進行速度や症状の出方、治療の効きやすさなども異なるため、治療方針を決めるためにがんの組織を採取してどの種類に分類されるかを調べます。治療法は小細胞肺がんとそれ以外(非小細胞肺がん)で大きく異なります(表1、図1)。

表1 主な肺がんの組織型とその特徴
表1 主な肺がんの組織型とその特徴

出典:国立がん研究センターがん情報サービス

図1 肺がんの発生部位

肺がんの発生部位

肺門部:気管が左右の主気管支に分かれて肺に入る部分
肺野部:肺門部以外の部分

肺がんのステージ(病期)

がんがどのくらい進行しているかは「ステージ(病期)」として分類します。ステージは大まかに、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期の4つに区分されており(表2)、Ⅰ期からⅣ期に進むにつれて、より進行したがんであることを示しています。ステージの決定には、TNM分類という国際的な分類法が用いられます。TNM分類は、腫瘍(Tumor)、節(Node)、転移(Metastasis)の頭文字をとったもので、大もとのがんの大きさ、リンパ節に転移があるかどうか、遠くの臓器に転移しているかどうかの3つの要素のそれぞれの段階の組み合わせにより分類されます。Ⅰ~Ⅳ期はさらに細かく、ⅠA1、ⅠA2、ⅠA3、ⅠB、ⅡA、ⅡB、ⅢA、ⅢB、ⅢC、ⅣA、ⅣBに分けられます。

表2 肺がんのステージ

肺がんのステージ

肺がんの原因

肺がんは、何らかの原因により気管支や肺胞の細胞の遺伝子に傷が付き、それが修復、排除されずに増殖し、がん化することによって起こります。原因として、タバコ、アスベストやラドン、ヒ素、クロム、PM2.5などがあげられている他、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、肺がんの家族歴や既往歴などがリスクを高めると考えられています。

タバコ

タバコの煙の中には、約250種類の有害化学物質、約70種類の発がん性物質が含まれています。これらの有害物質は、タバコを吸うことによって肺に届き、血液によって全身の臓器に運ばれて遺伝子を傷つけ、がんの原因になります。タバコを現在吸っている人は吸っていない人と比べて男性で4.5倍、女性で4.2倍、肺がんになるリスクが増えると報告されています1)。また、タバコを吸っている本人だけではなく、周囲の人の肺がんリスクも高めます。

1)がんの統計‘08年度版(公益財団法人がん研究振興財団発行)

大気汚染

大気中に浮遊する粒子状物質のうち、2.5μm以下の物質である「PM2.5」は、その粒子の小ささから肺の深部にまで到達しやすく、国際がん研究機関により肺がんにおいて「ヒトに対して発がん性がある物質」と判定されています。PM2.5と肺がんの発生頻度との関係を調査した報告では、PM2.5の濃度が上昇するとEGFR遺伝子に変異を持つ肺がんの発生率が上昇することが報告されています2)

2)Hill W,et al: Nature. 2023; 616(7955):159-167.

女性ホルモン

女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、肺のがん化やがん細胞の増殖を促進することで肺がんの発生にかかわると考えられています。初経から閉経までの期間と肺がんの発生率の関連を検討した調査では、初経から閉経までの期間が長い人で肺がんの発生率が2倍以上高かったことが報告されています3)

3)Ying Liu, et al.:Int. J. Cancer.2005; 117(4): 662-666.

肺がんの症状

肺がんの症状はさまざまで、肺の内部にがんがとどまっている早期の段階での症状、がんが周囲の臓器へ浸潤、圧迫したことによる症状、離れた臓器に転移したことによる症状など、病状の進行によって変化していきます。他の呼吸器疾患でも同じような症状が出ることもあり、「この症状があれば必ず肺がん」というような特有の症状はありません。反対に症状が全くないまま進行し、定期的に受けている健康診断や他の病気の検査時に見つかることもあります。

初期症状:咳・痰・血痰

肺の中心部にがんがある場合は、咳や痰、血痰(血の混ざった痰)、発熱などの症状が出ますが、肺の端のほうにある場合は、早期では無症状であることが多いとされています。風邪をひいていないのに咳や痰が2週間以上長引く場合は注意が必要です。早期発見が大切ですので、気になる症状がある場合は医療機関を受診しましょう。

進行したときの症状:食べ物が飲み込みづらい・声のかすれ・胸痛・動悸

肺に生じたがんが大きくなり、周囲の臓器へ浸潤、圧迫することにより、さまざまな症状が起こります。食道が圧迫されることにより食べ物を飲み込みづらくなる、のどや声帯の神経が圧迫されることにより声がかすれる、胸膜や心膜)への浸潤により胸の痛みや動悸、息切れなどが起こることがあります。

転移したときの症状:肩や背中の痛み・頭痛・ふらつき・麻痺・顔のむくみ

肺がんが転移しやすい臓器は、反対側の肺、骨、脳、肝臓、副腎などです。骨に転移した場合は肩や背中の痛み、脳に転移した場合は頭痛やふらつき、麻痺が起こります。また、リンパ節に転移したがんが大きくなり上半身の血液が心臓に戻るときに通る血管を圧迫した場合は両腕や顔面のむくみが出ることもあります。転移による症状は、転移した場所とその大きさによって異なりますが、がんが小さいうちは症状がないことがほとんどです。

肺がんの治療法

肺がんの主な治療法は手術、放射線治療、薬物療法であり、それらを組み合わせておこなう治療を、集学的治療といいます。治療方針は、がんの種類やステージ、身体の状況、そして患者さん自身の希望で決まります。一般的には、がんが一部にとどまり他の臓器に及んでいない場合には手術で取り除きます。放射線治療は、肺がんを完治させるためや症状をやわらげるためにおこなわれます。薬物療法には、細胞障害性抗がん薬、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬があり、がんを小さくする、転移を予防する、症状をやわらげるなどの目的でおこなわれます。

肺がんを見つける検査

検診では、問診や胸部X線検査、喀痰細胞診がおこなわれます。胸部X線検査は、いわゆるレントゲン検査であり、大きく息を吸い込むことで肺をふくらませ、そのまま息を止めて撮影します。喀痰細胞診は、痰の中にがん細胞があるかどうかを調べる検査です。肺がんのリスクが高い人を対象に、胸部X線検査と組み合わせておこなわれます。具体的には、50歳以上で、喫煙指数(1日の喫煙本数×喫煙年数)が600以上の人が対象となり、3日間、起床時に採取した痰を検査します。検診によって、肺がんが否定できない、疑わしいと判断された場合は、精密検査へと進みます。

肺がんの早期発見・予防

肺がんは無症状の場合もあり、診断時には病状が進行していることも少なくありません。特に、喫煙している人(過去に喫煙したことがある人)や家族が肺がんになったことがある人、アスベストなどの影響を受けやすい環境にいる人、肺疾患(慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、肺がん)にかかったことがある人などは肺がんになるリスクが高まるといわれているため、注意が必要です。

早期発見のために定期検診を

健康診断や人間ドックは定期的に受けるようにしましょう。早期発見のために、40歳以上の人は毎年肺がん検診を受けることが推奨されています。そのため、多くの市区町村では一部の自己負担金で肺がん検診を受けることができます。

予防

肺がん予防のため、タバコを吸っている人は禁煙し、吸わない人はタバコの煙を避けて生活しましょう。喫煙は肺がんになるリスクを高めるだけではなく、肺炎や心筋梗塞などの手術の合併症が増える、抗がん薬(化学療法)や免疫療法の効果が悪くなる、放射線治療で肺障害のリスクが高まるなど、治療の効果にも影響を及ぼします。

肺がんについて、詳しくは肺がんの症状のページもご覧ください。