がんになっても -がんの治療を、その人「らしい」生活のなかで。-

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乳がん・前立腺がん・肺がんを中心に患者さん・ご家族の体験談、高額療養費制度などの情報を紹介

私からのメッセージ

坂下千瑞子さん
「がんを体験した医師の私に今できること」

Vol.3 大分で患者支援チャリティーイベントの
「リレーフォーライフ」を開催する

リレーフォーライフ大分大会

―― 2008年、実行委員長として大分でのリレーフォーライフを企画・実行されましたが開催までの具体的な経緯を教えてください。

 2度目の再発中だったので、精神的にも身体的にも自信がなく、なかなか一歩が踏み出せませんでした。そんな中で、芦屋で一緒にトラックを歩いた娘が、私が喜ぶ姿を見て自分も嬉しかったらしく、「大分でもやろうよ」と言い出しました。「ママ、いつやるの?どこでやるの?」とくり返す娘に、背中を押してもらいました。東京での講習会に参加して開催の資格を獲得し、最初は実行委員を募るところから始まりました。地元で「緩和ケアの夕べ」という会を定期開催している先生にお願いして、会の最後にリレー・フォー・ライフの話を何度かさせてもらったところ、がん患者さんや家族の方、医療者など少しずつ協力者が集まりました。

リレーフォーライフ大分大会の様子

 私の病気を知っている友人にも声をかけました。「励ましたかったけど、どうしていいかわからなかった」のが「何をしたらいいのかわかった!」と言って喜んで協力してくれたんですね。協力そのものも嬉しかったのですが、私のことをこんなに想い、気づかってくれていたんだということが嬉しくて・・・・・・。

 会場は、大分大学医学部のグラウンドを借りて実施する運びとなりました。

―― 開催して、どんな成果があったのでしょう。

 延べ3000人が参加してくれました。がん患者さんも200人以上が参加しました。医療者が患者さんを、患者さんが医療者や仲間を誘って皆で来てくれました。大分の実行委員の中には医師もいて、担当の患者さんに、「支障があったら顔を隠してもいいんですよ、テレビもいっぱい来ているし・・・」と心配していました。でも当の患者さんは「いいの、いいの」と笑顔で歩いていました。普通は、自分ががんであることを表明するのには勇気がいると思うんですね。でも仲間と一緒であればできるんです。むしろ、がん患者さんがその場で一番大切にされる存在なんです。リレー・フォー・ライフは患者同士や支援をしてくれる人たちとの交流の場であると同時に、がん患者さんの病気と向きあう勇気を讃えるイベントでもあるんです。

広がるネットワーク

―― 大分でのリレーフォーライフでは、思わぬ展開があったとか。

坂下千瑞子さん

 この活動を通して、面白いことが起こりました。
 参加した複数の医療施設の看護師さんたちが、連絡を取り合ってネットワークを強めたのですね。看護師さんたちの多くは患者さんとの関わり方や心のケアの重要性に気づいていて、よりよいものに改善したいと願っています。でもこれまでは、どうすればよいのかわかりにくかった。このリレー・フォー・ライフの中に、その答えがあるのではないかと興味を持ってくれました。そのことをまわりの仲間にも伝えようと、もともと持っているネットワークを広げて、さらにそのつながりが強化されていった気がします。そして、患者さんと向きあうのではなく、人として寄り添うことが大切だと理解してくれました。診療の場では見たこともないような患者さんの笑顔に出会い、語りあいながら皆で一緒に同じ方向を向いて歩く経験をしたことで「これからはみんなが同じ方向を向いて、力をあわせてやっていけるね」と絆が深まり、感動が広がっていきました。

「患者が主人公の医療」を実現するために

―― がん医療には、まだまだ改善すべき課題が多いとお考えですか。

 残念ながら、今のがん医療は、患者さんが主人公にはなっていないと思います。病院や、医療スタッフが診療を安全に効率よく行いやすいという観点から成り立っている部分が多いように感じます。それは、これまで医療者側だけで医療について考えてきたからだと思います。実際にがん医療の現場で、医療を受ける側として戸惑っている患者さんの声は、反映されてこなかったからなのではないでしょうか。最近になって少しずつ、医療者も患者さんの声に耳を傾けるようになってきましたが、自分がかかっている、しかもこれからも関わり続ける医療施設に不満を言うことができる患者さんはほとんどいないと思います。医療者と患者さんとの間にある力関係や、意識の差がいかに大きいか、自分が病気になって初めて気がつきました。

 医師をしていた時には、「何でも言って下さいね」と言えば、患者さんは何でも言ってくれると思っていました。でも、たとえば、「セカンド・オピニオンを受けたいので資料を貸して下さい」と自ら主治医に言うことが、どれほど難しいことなのかを、案外医療者は気づいていないと思います。人が大きな決断をする時には、他の可能性も検討し見比べて、よく考え、最良の決断だと納得してその方向に進んでいくものだと思います。命に関わる重大なことなのに、患者さんは必ずしも納得しないままに、レールの上に乗せられているような気がします。

―― よりよいがん医療の実現に向けて、患者さんにできることはあるのでしょうか。

 もちろんたくさんあります。医療を変えるために患者さんにできることは、患者さん同士で支えあうことと、今の医療に足りないもの、現実にいま困っていることを伝え、声をあげていくことです。がんはその人の一生を変えてしまいかねない病気です。人の一生はその人しか責任を持てないわけですから、自分らしい人生を生きるためにも、もっと治療のことを含めて医療者に聞き、想いを口に出し、納得して治療を受けられるようになるといいですね。困っていること、不足していること、やってほしいことも口にしていいのです。そうすれば一人ひとりの意見が、その貴重な体験が医療を変える力になります。そういう意味で、がん患者さんは誰もが医療を変えられる可能性を持っているのだと思います。

 がん患者さんの中には、自分がたとえ治らないとしても、あとに続く患者さんたちが自分たちが困っていることで困ってほしくないと願っている方もたくさんいます。そのためにも、今、自分たちが困っていることを明らかにして、勇気を持って改善していくことは重要だと思います。

 リレー・フォー・ライフは、「がん患者さんはこんな想いを持っている」、「医療者もこんなにがんばっている」と気づきあうきっかけにもなったのではないかと思います。患者さんの声を、医療関係者や研究者や行政や一般の方に届け、いろいろな立場の人がともに考え、地域社会の中で絆を深めていけば、いろんなことが解決できる可能性があると思います。

次回は、「がんを体験した医師として」についてご紹介します。

皆さまの体験が誰かの生きる力になります

「自分らしくがんと向き合う皆さんの姿、想い」
「患者さんからご家族への想い」「ご家族から患者さんへの想い」

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