がんになっても -がんの治療を、その人「らしい」生活のなかで。-

アストラゼネカ

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乳がん・前立腺がん・肺がんを中心に患者さん・ご家族の体験談、高額療養費制度などの情報を紹介

私からのメッセージ

上野直人さん
「医師として見ていたこと、患者になって見えたこと」

がん発見から診断・治療までの経緯

――昨年の暮れに、偶然がんが見つかったそうですね。医師として、そして個人としての立場から、そのご経験を聞かせてください。

  右大たい部に悪性線維性組織球腫という珍しい肉腫が見つかりました。クリスマスイブの前日、シャワーを浴びているとき、太ももにシコリがあることに気づいたのです。一月に、がんによるものかどうかを調べるために細胞を採取する検査を受けたのですが、結果が出るまでの30分間は正直怖かったですね。一方で検査結果が出て、告知されたときに「やっぱりなぁ」とも思ったんです。直感というのか、がんの可能性が高いという感覚はあったのです。告知後、検査を担当した医師にいろいろ質問したはずなのですが、どんな説明を受けたのか、はっきり思い出せません。中身のあることは何も聞いていなかったのですね。病理学的に見て5年生存率は50%というデータを知っていたから告知はやはりショックだったです。

――ご家族にはいつ知らせたのですか?

 告知を受けた直後に家内に電話をしました。
「えぇ! 何かの間違いと違う?」というのが第一声でした。「いや、細胞を取って調べた結果や」というと、「そうか、脂肪のかたまりと違うかった。やっぱりがんやったんや!」(笑)。家内とは、いざというとき尊厳死を希望するかどうか、いわゆるリビング・ウィルについても普段から話し合っているので、こういうときでもフランクに反応しあえたのです。でも、さすがにその日の夜は眠れませんでした。
 幸か不幸か、翌日、翌々日は外来診療の日で、その後にNHKの番組の取材も入っていたので、病気については少しは気が紛れました。

――治療法を決定するとき、ご自身も意見を言われたのですか?

 月曜日に告知があって、木曜日には肉腫の専門医を中心としたカンファレンスが開かれました。そこで1週間後に手術をすることが決まったのですが、私自身は何も発言しませんでした。告知から数日経っていくぶん気持ちも落着いていたのですね。むしろできるだけ医師としての自分を抑制するように言い聞かせました。黙っていてもスタッフたちは一生懸命やってくれている。そこに患者とはいえ医師である私が口を挟んだら余計なプレッシャーになると自制したのです。

形を変えて次々と襲ってくる不安

――不安は告知のときだけ感じられたのでしょうか?

上野直人さん

 いえ、告知の2日後には大たい部に別のシコリが見つかりました。肺のCT検査でも影がありました。もし転移巣だとすると見通しはとても厳しくなるので、この検査結果を待つときも辛かったですね。幸い転移はありませんでしたが…。

 手術を受けた後も将来的な再発の心配など、形を変えて不安が次々と襲って来ました。

 その折々、「あせらないこと」と、自分が書いた本の第1章が頭に浮かんできたのです。「おぉ、けっこういいこと言っているじゃないか」と自身に言い聞かせたりもしました。自分ががんになると予想して書いたわけじゃないのですが(笑)…。

 でもやっぱりあせるんですよ。手術で取った切片を調べて、私のようなケースでの再発率は3%とわかったのですが、数字がいくら小さくても安心できないんです。どうしても再発のことを考えてしまう。再発の心配に気持ちがフォーカスしても答えがないとわかっているのに、心配なのです。小船に乗って海に出て、出会うかもしれない嵐のことばかり心配しているようなものですね。

友人たちの反応、日米の相違

――上野さんは日米に友人や知人がたくさんいらっしゃいます。その方たちにはがんになったことを知らせたのですか?

  ええ、知らせました。面白かったというか興味深かったのは、友人たちの反応です。メールを出したのですが、日米で顕著な違いがありました。アメリカでは「大丈夫?」「何かできる?」というように確認のメールが来たのですが、日本からは2割ぐらいしかレスポンスはなく、あとは無反応でした。こっちが心配になり「生きています」とフォローのメールを出しました(笑)。

――知らせるに当たって、躊躇しませんでしたか?

 知り合って間もない知人に対してはどうしようかと迷いました。実は手術の翌週に講演などの用事があって来日したのですが、知らせてあっても誰もがんのことに触れないんですね。これが日本人の気づかいなのかと思いました。

 知らせてそう日も経っていないのに、「上野は死んだ」とか「そう長くはない」なんていう噂も飛び交っていて困りました。ある仕事のパートナー企業では、「いずれ上野先生は仕事ができなくなる。その後をどうするか」というミーティングがあったと聞きました。本人が来日しており、会おうと思えば会えるのですから、「元気ですか」とか「大丈夫ですか」とか直接聞いてくれればよいのに(笑)。

がんに対する社会的な認識を変える必要が

――そのような反応は日本ではそう珍しくないのではないでしょうか。

上野直人さん

 もちろんパートナー企業にも一切悪意はないのです。ですがそのような反応がいくつか重なると、知らせた方は辛いですよね。なんのために知らせたのかわからなくなります。

 がんであることをカミングアウトすると、本人の意思とは関係なく社会的に隔離され、孤立する危惧があることを身をもって知りました。

 日本のがん患者は、がんになったことや病状、体調について職場に報告しにくいと言いますが、それは無理もないことですね。男性の2人に1人に、女性の3人に1人が、がんにかかるといわれる時代に、がんに対する社会的な認識を変えていく必要があると思いました。

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