がんになっても -がんの治療を、その人「らしい」生活のなかで。-

アストラゼネカ

文字サイズ

乳がん・前立腺がん・肺がんを中心に患者さん・ご家族の体験談、高額療養費制度などの情報を紹介

私からのメッセージ

音無美紀子さん
「乳がんとうつ病を乗り越えて」

「私は、まだ病人なんだ」

―― 結果として、隠したことが重荷になったのでしょうか。手術は成功でしたが、今度はうつ病に罹られました。隠したことが原因の一つとお考えですか。

 そうですね、「これであと何年生きられるかな」という目の前に死がぶら下がっているみたいな恐怖は、乳がんに限らず、がんと診断された方たちには少なからずあると思います。ですから、私は大丈夫と思いつつも、どこかで不安は消せません。入院時、「私は元気な人に負けないぐらいの普通の姿になって退院するぞ」と自らに言い聞かせ、リハビリもしっかりやるなどすごく頑張って、私はもう普通の人間になれたと思って退院しました。実際、看護師さんたちが舌を巻くほど回復も早かったのです。

 けれども、家に帰ってみたら、子供と一緒にお風呂に入れないとか、腕を上げて髪の毛をセットしようとしても、痛みや違和感に我慢しながらということになり、「自分で髪の毛もセットできないんだわ」との思いに襲われる。退院するにあたって、私の場合はリンパにも転移があって取り除いていたので、左手を怪我すると重大な病気に罹る恐れがあるから特に気を付けなさいとの注意も受けていました。あまり台所で包丁をもったりなどしないほうがいいというわけです。先生の説明を受けたとおりに、薬も毎日飲まねばならない。あれやこれやで日常生活に戻ったとはいえ、「自分はまだ病気から完全に回復してはいないのだ、病人なんだ」と思い知らされるようでした。「こんなはずではなかった、普通の人と変わらないで帰ってきたはずなのに、やっぱり病人なんだって・・・」。プラス思考で通していた病院生活から、だんだんマイナス思考に取り囲まれた日常となり、不安のほうが大きくなっていきました。

復帰図ったドラマの衣装合わせでつまずく

――そういう状況の中で女優の仕事を再開されて、夏の服装をめぐる監督との衣装合わせでトラブルがあり、気持ちがさらに大きく落ち込みました。

音無美紀子さん

 それが決定的だったですね。マイナス思考で気持ちが沈み込む中で、食欲不振や不眠、また家から一歩も外に出られないとか、ベッドから起き上がれないなどの症状に襲われるようになりました。マネージャーから「あなたは仕事が好きで、仕事場に行ったらきっと元気になる」と励まされ、私も「そうかな、気分転換になるのかな」という気持ちになり、復帰を考えました。だけど自分が病気だったことは誰にも言っていません。もちろん監督も知りません。でも衣装合わせでつまずくなんて、思ってもみないことでした。

 ドラマでの私の役柄は、60年安保をめぐる学生運動のリーダーという勇ましい女性でした。季節は、初夏から夏へかけてという設定です。私のつける衣装の話になり、監督は半袖シャツで、上から二つボタンをはずすというラフで活動的なイメージを求めました。私はほんとうに困りました。リンパ節を含む全摘手術で、左胸は取られていましたから、襟元を開けば傷痕がまる見えですね。

 加えて、もう一つの事情がありました。これも私の退院後のマイナス思考に陥る要因のひとつでしたが、予後措置として抗がん剤の注射を腕に受けました。元々、私は注射にはナーバスで、消極的だったところへ、それがうまくゆかず、液が皮下に漏れて斑点ができてしまいました。最初の右腕に続いて左腕も同じ結果となりました。半袖では、これもまる見えとなります。

 私は「イメージは洋服でなくても出せる」と頑張り、「長袖ブラウスの袖口を二つか三つ折りでは」と主張したら、「そんなに腕を出すのが嫌なのか」と監督の言葉も吐き捨てるような調子に変わりました。出だしの衣装合わせですんなり意見が合わないという事態で、私はパニック状態に陥り、心臓はパクパク、頭はガンガン、呼吸すらうまくできないような始末となりました。

意識も身体も混沌の世界

―― その事件は、うつ病の大きな引き金でしたね。

 そのまま本読み、リハーサルに入ったのですが、字が目に入ってこなくて、しゃべれないんです。翌日でしたか、ロケーションに出発という状況になって、「ああ、やっぱり私はできないんだ」と思い知らされ、ドタキャン同様にドラマを降りました。

 病気の症状は、悪化する一方でした。後で聞いた夫などの話ですと、表情は暗く沈み、「どうしたんだ」などと荒っぽい言葉を投げつけられても反応しない。子供の弁当に何を作ったらいいのか分からない。スーパーに行ってもかごに何一つ商品は入らず、何も買わないで帰って来てしまうという有様でした。

次回は、「立ち直られた大きなきっかけ―娘の一言」についてご紹介します。

皆さまの体験が誰かの生きる力になります

「自分らしくがんと向き合う皆さんの姿、想い」
「患者さんからご家族への想い」「ご家族から患者さんへの想い」

このようなテーマで皆さまからの
体験談を募集しています詳しくはこちら