がんになっても -がんの治療を、その人「らしい」生活のなかで。-

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私からのメッセージ

岸本葉子さん
「私らしさをもとめて」

死が近づいてきたとき

「生きること自体が好き」前回のインタビューでの印象深い一言でした。いったい世の中でどれくらいの人が自信をもってこのようなことを言えるのでしょうか。しかし、岸本さんも死に対して恐怖を感じたことがないわけではないそうです。3回目となる今回は、自分と向き合いながらがんとともにに生きていく「退院後の生活」についてお伺いしました。

――死をもっとも身近に感じたのは告知の時ではなく、退院直後であったそうですね

 告知のときは、実はそれほど死については考えませんでした。それよりも目の前の入院や手術のことで頭がいっぱいでしたからね。死を最も身近に感じたのは、退院直後の夜でした。それまではあまり「死」に対する実感を持たなかったのですが、退院後もなお死に至る可能性が充分にあるという事実に直面した時は、さすがに怖くなりました。

――その時の衝撃はどのような感じでしたか

 身体的な感覚で言えば、何か胸が圧迫されるような、そういう感じでした。じっと座っていられないというような、何かをしなければならないという焦燥感に駆られました。

――そのような衝撃を受けて、退院後、真っ先に岸本さんはどのようなことをされたのですか

 まずは医学書から情報を得ようと思って、本屋に駆け込みました。じっとしているのではなく、とにかく自ら動いて情報を集めずにはいられませんでした。

――情報と一言で言いましても、様々な情報がありますが、どのようなことを一番お知りになりたかったのですか

 その時に一番知りたかった事は、再発を防ぐために今自分にできることはあるのかどうか、ということでした。自らできることがあるのにしないで再発するというのはあまりにも残念なので、できることがあるなら知りたいという気持ちでした。只、世の中には営利目的で再発を防ぐようなことをうたっている健康食品等の関連本等はありますが、そのような情報ではない学術的・中立的な情報を求めました。

 つまり知りたかったのは再発を防ぐためには自分で何ができるのかという以前に、そもそも再発というのはこのように起こるとか、がん細胞はこのようなかたちで増殖して、それに対してこうすれば増殖は止められますよ、というようなもう少し簡単な生物学的、医学的な説明がほしかったのです。それに加えて、だからこういうふうにしたら再発を防げる可能性がありますみたいな根拠のある手段を知りたかったです。

不安を感じるのは心が健康な証拠

―― 岸本さんはいま現在、「再発」に対しての不安や悩みをお持ちですか

 不安や悩みは常にあります。最近は、再発不安と同時にさらに重複がんへの不安を抱くようになりました。

―― そんな不安を抱える中で再発に関してのどのようなことが知りたいのですか

岸本葉子さん

 もし転移した時に自分が混乱しないように、転移した際の情報は今から知りたいと思いますね。例えば私の場合ですと、肝臓転移・肺転移を見つける検査を定期的に受けています。まず問題になるのが、もし肝臓に転移をしていた場合にセカンドオピニオンをもらいに行くのは肝臓の先生なのか、もともとの大腸がんの先生なのかということです。また、肝臓にできている大腸から転移したがんに対しての治療法やどこの病院がよく研究し、実施しているのかを知りたいですね。初発のときの標準治療の情報量と転移後の情報量では、ずいぶん差がある感じがしますので。

 おそらく、転移後は標準治療というものがない世界だから、情報が少ないのだろうということはわかりますが、そのへんがもう少し知りたいです。治療の選択肢として自分はどんな方法を取り得るのかということですね。

――情報量の不足等の環境からくる不安や、単純にがんと向かい合うことに対する不安等、様々な思いが交錯しているかと思いますが、不安を払拭するためにとられている行動はありますか

 第一に、そのようながんに対する不安はあって当然だと思うようにしています。不安を抱くこと自体が何か、自分の心にとんでもない異常事態が起きていることを示しているのではなくて、心が健康だからこそ、不安という反応をするのだというように思うようにしています。ですので、不安をなくそうとするのではなく、不安は不安でそのまま置いておいたまま、なるべくその時そのときで集中して過ごすことを心がけています。例えば、不安だけれどもご飯の支度をしようとか、そのようなことをしています。

――具体事例をもう少し挙げていただけますか

 例えば、ずっと1週間洗濯をしていなくて次の日曜日には洗濯をしようと思っていたとします。でもその日曜日に精神的に不安定になり、気持ちは洗濯どころではなくなるかもしれませんが、それでも洗濯を絶対にするとか、そのようなことを心がけて行動しています。別の例を出しますと、私は歌舞伎や文楽が好きなのですが、歌舞伎の切符を取ったら、その日は再発不安で歌舞伎・娯楽どころではなくても、体調が許す限りはってでも歌舞伎座に行きます。また、再発が不安なときでも、誰かと話しているときはその時の話題に集中するようにして、他のことに気が散らないようにしています。

希望をもつということ

―― 著書の中にせっかくこの世に生まれてきたのだから「受容を心の片隅に、真ん中には希望を置いて、退院後を生きていく」と書いていらっしゃいますよね。この文章がとても印象深いのですが、「希望」という言葉に込められた岸本さんの想いをお聞かせいただけますか。

 その言葉を書いた時は、私自身の中でもまったく「希望」の内容は具体的ではありませんでした。おそらく、自然に私の心の中に浮かんできた言葉なのだと思います。しかし、退院後に元のように生活してゆく中で、又多くの様々ながん患者の方と接する中で、希望の大事さを徐々に感じてきたという気がします。

――希望を持ち続けることが難しいという患者さんもいらっしゃいますよね

 そうですね。でも、この希望という意味は決して精神論のみを示しているのではありません。例えば仮に再発しても、まだ取り得る治療方法はあるという医学的な要素もあります。そして、もちろん再発の可能性が高くても、あきらめずに治すことを目指すなど、そのような様々な視点からの「希望」を示しています。必ずしも完全に治ることだけが全ての患者の目標とはならないということですね。

――日々の心がけとそれに伴う行動が、不安に打ち勝つためには大切なのですね

 一瞬一瞬を決して刹那的に生きていくわけではなくて、「集中」して生きるということが大事なのだと思います。何かに集中することで、その時間だけでもある意味でがんにとらわれていない時間になるのです。その集中している時間は、がんを乗り越えている時間だと考えてなるべくたくさん意識的に作っています。そうすることで、総合して生活を見た時にがんに支配されない生活になるのではないかなと思います。

セカンドオピニオンをステップにして

――先ほどセカンドオピニオンという話がありましたが、セカンドオピニオンに対しての岸本さんのご意見を伺えますでしょうか

 セカンドオピニオンの大切さについては、今さら言うまでもないことですよね。しかし、それよりもまず、ファーストドクター(主治医)とのコミュニケーションをきちんととることが大切です。ファーストドクターの説明と提示した治療法が、自分が本やインターネットで得た知識で思っている方向性と一致したならば、必ずしもセカンドオピニオンは必須ではないとは思います。

――と言う事は、ファーストドクターとの関係が重要ということですね

 考えなくてはならないのは、ファーストドクターとコミュニケーションをとりいかに良い関係を築いていくかということです。セカンドオピニオンに頼る患者の中には、実はファーストドクターとの良い関係を築けていないがゆえに、セカンドオピニオンを受ける人もいるかもしれません。でも、それはファーストドクターとの信頼問題であるので決してそのままで良いとは言えません。

――医師側は、セカンドオピニオンをどのように考えているのでしょうか。ファーストドクターに遠慮してしまうことはないのでしょうか

 遠慮というわけではありませんが、医師の側でセカンドオピニオンとは転院するためだとか、ファーストドクターを代えたいときにするものだという誤解をしている医師がいるようなのです。それは非常に残念なことです。私は、仮に目の前のファーストドクターに治療をお願いしたいと思っても、もし治療法が多岐にわたって自分で決断ができないようであるのならば、安心してそのファーストドクターに治療をお願いするためにも、セカンドオピニオンを受けたいと思います。むしろ、その治療を安心して受けるためのステップだと患者の側は考えているのに、ファーストドクターの側は、自分を信頼できないからだと思っているとしたら、それは非常に悲しいことです。

主体的に生きる

――ここで、岸本さんの著書から一文を紹介させていただきます。「私は私の主体でありたいと思う。がん患者として生きることは、人間としての主体性をがんに譲り渡すまいとする不断の格闘なのだ。 (中略)・・・あくまでも未来に主体的にかかわる生き方をとおす。」これを読んだ時に、岸本さんは本当にすごく強い女性なのだと感じました。「私は私の主体でありたい」というその想いを実践できるコツは何かありますか。

岸本葉子さん

 コツといえるのかはわかりませんが、何でもがんに原因を求めないようにしています。「私は今こう感じている。こう考えている。それはがんになったからであって、がんでない人にはわからない」というような言い方は、決してしたくありません。

――そのような意識を持ち続けるのは簡単なことではないですよね。がんのせいにしてしまうのは患者さんが陥りやすいところだと思います。主体的に生きるために「私はこれをしている」ということはありますか

 社会でも家庭でも地域でも、なるべく自分の役割を変えないようにしています。例えば、私は退院した翌年に自宅マンションの管理組合の理事長の順番がまわってきましたが、がんを理由に断ったりせずに地域での役割を果たしていました。またがんになったからといって突然親と同居することはせずに、今までどおり都内で別居するというスタイルを貫いています。

 仕事の質も、がんになったからといって突然変えずに、前と同じように日常エッセーも旅エッセーも本のエッセーも書くなど、そうしたがんになる以前からの一貫性ということにすごくこだわりました。どうせ私はがんだからとはなるべく思わないようにして、例えば歌舞伎に行けば歌舞伎に集中するし、心はいつまでものびのびと振る舞いたいということを常に思っていました。

――以前の生活から続く一貫性が、岸本さんの生き方のペースを保っているのですね

 結局、私の人生はがんがどれくらい増殖するかによって決められるのだと思うとそれは耐えられないので、がんを自分がコントロールしているという、何か自ら働きかけている実感を得たかったのです。だから主体性という言葉が出てきたのだと思います。そしてそれが、決して大きな声で勧めていいのかわからないけども、私にとっては食事養生を含む代替療法であったり、人によってはサポートグループに出るということだったりするのかなと思います。やはり再発を防ぐ方法はないとしても、自分が努力している、自分が能動的になっているということを何かで確認、実感したいという気持ちがありました。

自分の人生の主導権を握る

――食事療法のお話が出てきましたが、岸本さんはがんになられる前も、非常に食事には気を遣っていらっしゃったと聞いています。いま現在はどのような食事のとり方、工夫をされていらっしゃるのですか

私がしていることは、ご飯を白米ではなく胚芽米に雑穀を混ぜて炊いたものを主食としたり、タンパク質は肉、卵、乳製品よりも魚から摂るようにするとか、調味料もなるべく伝統的なつくり方にのっとって、添加物の少ないものを使ったりすることです。どれか1つの食品を大量に摂取するというよりは、いま言ったような方針でバランスよく食べていくことに注意しています。

――食事療法に関しては、何か特別な勉強などはされたのですか

 いいえ。たまたま行っている漢方の先生の指導と、あとはいろいろながんの食事療法を見て、だいたい共通しているなというところは取り入れています。

――実践されている食事療法によって、体は良くなっていると思われますか

 からだへの影響は明確にはわかりませんが、心には良い影響を与えていることは実感します。やむを得ない時以外は、どんなに疲れていても必ず自分で食事を作ります。化学調味料を使わないので、とても手間がかかることは事実です。でも、そうやって食事に対しても自分で主導権を握っているということが、がんとたたかう自信にもつながるのです。一生懸命野菜を切ったり、料理を作っているとその瞬間はがんであることも忘れることができます。

――心にもからだにも良い影響を与えているのですね。

 やるだけのことは全てやっているという納得感があると、もし再発したとしても後悔しなくてすみますからね。私はがんのせいにしたり、後悔したりすることだけはしたくないのです。

岸本さんの強さは、決して受身の生き方では得られない。時には自分の弱さと向き合いながらも一瞬一瞬を主体的に生きているからこそ、自分自身を見失うことがないのでしょう。岸本さんが自分と向き合う日々は続く。

次回は、「医師や家族との関わりについて」をご紹介します。

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