緩和ケアと
緩和ケア病棟

ここでは、緩和ケアの基本的な情報と緩和ケアを受けるために入院する緩和ケア病棟がどのような場所なのか、また、介護者のためのレスパイト入院についてご紹介します。

緩和ケアとは、がんになって生じた心と身体の苦痛をやわらげ、QOL(生活の質)の改善を目的とした治療のことです。がん患者さんだけでなく、ご家族に対してもおこなわれます。

緩和ケアとは

緩和ケアの内容

がん治療における緩和ケアは、痛みなどの症状をやわらげる緩和的治療の他、治療で生じる副作用への対応、栄養管理、ターミナルケア、そして治療の全期間を通しての心のケアなど多岐にわたります。

早期からの緩和ケアの有用性

早期からの緩和ケアの有用性は、2010年に転移のある非小細胞性肺がんの患者さんを対象にした臨床試験にて調査されました。その結果、早期(診断の直後)に緩和ケアがおこなわれた患者さんのグループでは、QOLや不安、抑うつ症状の改善のほか、生存期間が延びたことで大きく注目されました。
のちに類似した臨床試験がいくつもおこなわれ、早期からの緩和ケアは、抑うつや生存期間の改善については科学的根拠が不十分とされましたが、QOLの改善効果はあるとされています。

緩和ケアの提供者

がん診療連携拠点病院には、すべて緩和ケアチームが設けられています。チームのメンバーは、医師、看護師、薬剤師、公認心理師、栄養士、理学療法士といった多職種で構成されており、それぞれの視点から連携して緩和ケアをおこないます。

緩和的治療と根治的治療

がんの症状をやわらげる目的で行う治療を緩和的治療、がんの治癒を目指す治療を根治的治療といいます。

各治療法の緩和的治療の例

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治療法 手術療法 放射線治療
緩和的治療

苦痛の軽減やQOLの改善を目指して、がんを部分的に取り除いたり、人工肛門をつくります。

手術療法

骨転移による痛みや、脊髄の圧迫による手のしびれなどの苦痛をやわらげるため、苦痛の原因になっている部位に放射線を照射します。

放射線治療

緩和ケアは、一般病棟や外来、在宅療養などでも受けることができます。一方で、緩和ケアを受けるために入院する病棟である緩和ケア病棟が実際はどのような場所なのか、想像しにくいかもしれません。そこで、国立がん研究センター東病院 緩和医療科 科長 松本 禎久先生にお話を伺いました。

※取材当時のご所属です。現在はがん研有明病院センター 緩和ケアセンター長 緩和治療科部長を務められています。

緩和ケア病棟とはどのようなところですか? 一般病棟との設備などの違いについて教えてください。
緩和ケア病棟は、ご自宅で過ごしながら治療を受けている患者さんやご家族が、ご自宅にいることがつらくなったときに入院することができる病棟です。一般病棟と比べると、患者さん1人に対してのスペースは広めでゆったりとしており、ご家族のための休憩室やご利用いただけるキッチン、面談室、談話室などがあります。療養環境としてより整っているといえるかもしれません。24時間ご家族が面会可能な施設も多いので、つらいときにご家族に付き添ってもらいたいなどの希望を叶えることもできます。コンサートや季節のイベントなどがある施設もありますが、イベントの内容や開催頻度は施設によって異なります。また、病状や施設の方針によりますが、楽しむ程度なら飲酒が可能な施設もあります。
どんなときに緩和ケア病棟への入院を考慮すべきでしょうか?
緩和ケア病棟は、痛みや不安など、身体や心のつらい症状をやわらげたいときや、ご家族がご自宅で介護するのが難しくなったときなど、ご自宅で過ごすことが困難となった場合に利用を考慮するとよいでしょう。決して終末期に抗がん剤治療(化学療法)を中止した方だけが入る場所ではありません。緩和ケア病棟への入院でつらい症状が軽減し、退院後に抗がん剤治療を再開する患者さんもいらっしゃいますし、施設によっては抗がん剤治療やホルモン治療を続けながら入院する患者さんもいらっしゃいます。
しかし、利用したいと思ったときにすぐに入院できるとは限らないため、前もって緩和ケア病棟への入院タイミングについて考えておく必要があります。たとえば、進行・再発がんの患者さんで、標準治療が限られてきており、今後の療養について考えたい場合や、数ヵ月以内にご自宅で暮らしていくのが難しくなることが想定される場合などは、主治医に相談してみるとよいでしょう。
緩和ケア病棟ではどのようなケアが受けられるのでしょうか? 施設によって違いはありますか?
一般病棟、外来、在宅療養でも、緩和ケアを受けることはできますが、緩和ケア病棟では緩和ケアに関する研修を受けた医師のもと、身体や心のつらさをやわらげる治療を集中的におこないます。たとえば、痛みによりご自宅で快適に過ごせなくなったときに入院し、緩和ケア病棟で痛みの評価、鎮痛薬の調節などの必要な治療やケアを受けることができます。こうした入院での治療により痛みをコントロールし、ご自宅で過ごすことが可能になれば、在宅療養支援診療所や訪問看護ステーションなどと連携し、ご自宅での療養をサポートします。
緩和ケア病棟で提供される緩和ケアの内容については施設ごとに大きな差はありません。施設によっては放射線治療や神経ブロック療法などを受けることができる、できないなどの違いがありますが、今かかっている病院の主治医が必要だと判断した場合はその治療を受けるために別の病院にかかることもできます。
緩和ケア病棟に入院したい場合は誰に相談すればよいですか? 入院までの手順について教えてください。
まずは現在治療を担当している主治医に相談をしてみましょう。現在かかっている病院に緩和ケア病棟がある場合もありますし、ない場合はソーシャルワーカーからご自宅近くの緩和ケア病棟のある病院を紹介してもらうこともできます。緩和ケア病棟に入院するためには、同じ病院であっても別の病院であっても、緩和ケア病棟の担当医師の診察を受ける必要があります。別の病院の緩和ケア病棟に入院を希望する場合は、現在かかっている病院から受診先の緩和ケア病棟を紹介してもらい、紹介状を持って受診します。施設によっては病棟を見学させてもらえるところもあります。入院のタイミングは患者さんやご家族の希望をもとに緩和ケア病棟の担当医師が判断しますが、あらかじめ受診しておけば、いざ入院したいと考えたときにスムーズです。がん診療連携拠点病院のがん相談支援センターでも相談にのってもらうことができます。
緩和ケア病棟への入院期間はどのくらいですか? また、入院費についても教えてください。
緩和ケア病棟は、一度入院したら退院できない場所ではなく、つらい症状をコントロールしてご自宅や施設に戻る患者さんもいらっしゃいます。入院期間は以前と比べると短くなってきており、施設の方針によっても異なりますが全国の平均は30日間くらいです。
入院費は基本的には健康保険が適用されます。緩和ケア病棟は個室が多いのですが、無料の個室だけではなく、より設備の整った差額ベッド代のかかる有料個室がある施設もあります。

緩和ケア病棟の様子(国立がん研究センター東病院の場合)

  • サンルーム(談話室)
    サンルーム(談話室)
    ミニコンサートなどのイベントをおこないます。ボランティアの方による飾り付けが季節ごとに変わります。
  • 病室
    病室
    患者さん1人に対してのスペースは広めで、リラックスしやすい空間となっています。
  • デイルーム(面談室)
    デイルーム(面談室)
    ご家族との談話や医師との面談など、多目的に使用されます。
  • 家族休憩室
    家族休憩室
    付き添うご家族の方が休憩したいときに利用できます。
  • 浴室
    浴室
    患者さんの身体の状況に合わせてエレベートバスを使用して入浴介助をおこないます。
  • 庭

    サンルームからゆったりと眺めたり、お散歩したりできます。

レスパイトは休憩、息抜きという意味であり、レスパイト入院とは、介護をしている方が一休みすることを目的とした、患者さんの入院です。介護者が介護に疲れており休息が必要なときや、患者さんの夜間ケアのために眠れずに負担が増えているとき、諸事情により一時的に介護ができない状況のとき、患者さんとの関係が上手くいっておらず立て直しが必要なときなどに、主治医を含む医療従事者と相談して入院を考慮します。レスパイト入院の入院期間や対応は施設によりさまざまです。基本的には、介護者の方の負担や疲れが癒えたら退院となります。レスパイト入院を希望する場合は、まずは医療従事者に相談してください。緩和ケアの対象は患者さんとご家族の両方です。ご家族がつらいときや困ったときにも、がまんせずにサポートを求めましょう。