がん患者さんの治療と仕事(働く)の両立について

ここでは治療と仕事を両立していく上で必要な情報について紹介します。

がんはもはや不治の病ではありません。治療が急速な進歩を遂げる中で生存率も向上し、入院せずに外来で治療ができるようになってきています。治療をしながら仕事を続けることが可能になってきたため、がんと診断されたことを理由に仕事をやめる患者さんの割合は年々減少しています。
それでも、がんと診断されたショックは大きく、「治療で仕事を休むことで職場に迷惑をかけるのではないか」、「治療をしながら仕事をする自信がない」、「気力と体力が低下して、これまでのようには働けなくなるのではないか」と悩み、仕事をやめる方は少なくありません。
ただ、がんの治療には何かとお金がかかります。保険適用ではないけれど新たな治療にチャレンジしてみたいといった場面も訪れるかもしれません。これまで続けてきた仕事を継続することは、経済的な支えという点で大きな意味があります。仕事をしているからこそ使える制度もあります。
そのため、診断された直後は、仕事をやめるかどうかの判断は先延ばしにするのがおすすめです。病状やこれからの治療について理解し、気持ちが少しずつ落ち着いてから、改めて自分の仕事について考えてみましょう。

多くのがん患者さんが、治療をしながら仕事をしています

治療と仕事を両立できるよう、全国の治療環境や職場環境が整えられてきています。

  • 平成 18(2006)年:全国どこでも同じレベルの医療が受けられる環境を整備することなどを目的とし、「がん対策基本法」が成立。
  • 平成 28(2016)年:「改正がん対策基本法」が成立。がん患者さんの働く環境を改善する施策の拡充も目標に入れられ、会社が「事業主の責務」として、がんになっても雇用を継続できるような配慮をすることが明記された。
  • 平成 29(2017)年:3月に政府が「働き方改革審議会」を実施。治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整えることが打ち出された。

厚生労働省の調査で、仕事を持ちながらがんの治療で通院している人は44万8000人いることがわかりました(図1)。

もしかしたら、周りの人にはがんのことを伝えていなくても、治療をしながら仕事をしている人が、あなたの近くにもいるかもしれません。

<図1>
<図1>

引用元)厚生労働省:2020年11月5日
第13回 都道府県がん診療連携拠点病院連絡協議会
「がん患者・経験者の治療と仕事の両立支援施策の現状について」
(がん情報サービス:https://ganjoho.jp/med_pro/liaison_council/lc01/20201105/pdf/20201105_01-01.pdf

まずは自分の病状、治療、働き方について整理してみる

(1)主治医とコミュニケーションを取り、自分の病状を理解する

がんと診断され、さまざまな精密検査を受けた後、主治医から病状や治療についての説明があります。ご自分のがんの部位やステージについて理解できるまで説明してもらうなど、主治医としっかりコミュニケーションを取り、まずはご自分の身体のこと、病気のことをしっかり把握しましょう。

治療については、どのような手術をするのか、入院期間はどのくらいかかるのか、退院後の抗がん剤治療(化学療法)や放射線治療のスケジュール、その副作用や後遺症にはどのようなものがあるのかについて、納得できるまで主治医と話してみてください。メモを取っておいて、わからないことが出てきた場合は、看護師に聞いてみたり、ご自分で調べてみたりするのもいいでしょう。

治療についての説明を受けるときに、主治医に仕事内容や職場の状況を伝え、治療中もこれまで通り働くことができるのか、仕事に関する制限はあるのか、副作用が仕事に大きく影響した場合に他の治療方法はあるのか、なども確認しておきましょう。それにより、今後の働き方がイメージしやすくなり、会社に病気のことを伝え、配慮を求める場合に非常に役立ちます。

(1)主治医とコミュニケーションを取り、自分の病状を理解する

(2)看護師やがん相談支援センターにも相談を

「主治医から説明を受けたが、その内容がよくわからない」、「先生はとても忙しそうだから、細かく質問できなかった」、「先生の前では、何もいえなくなってしまう」など、医師とコミュニケーションを取るのが苦手な人もいるでしょう。

そのようなときは、説明に同席していた看護師、または外来の看護師に相談してみてはどうでしょうか。相談する際に、医師から説明を受けたときに取ったメモがあれば役立ちます。脱毛や皮膚障害などの治療に伴うアピアランス(外見)の変化、特に抗がん剤などによる副作用への対処法については、看護師は豊富な知識を持っています。

また、各都道府県のがん診療連携拠点病院には、「がん相談支援センター」(詳しくは、就労継続・復職支援のお役立ち情報へ)があります。ここでも、がんに関するさまざまな相談に乗ってもらえます。治療についてわからないこと、納得できないこと、治療と仕事の両立について不安に思うことなどを相談してみるのもいいでしょう。がん相談支援センターは、その病院に通院していない方でも、患者さんのご家族だけでも利用できる地域に開かれた相談の窓口です。

(3)仕事をすることの意味や働き方について、立ち止まって考えてみる

がんの診断直後は、「今まで仕事を頑張ってきたのに、もう以前のようには働けない」と落ち込んだり、「会社にがんのことが知られたら、今の仕事から外されてしまうのでは」と不安になったりすることもあります。しかし、治療のために仕事を休む期間は、ご自分の仕事をする意味や働き方について、立ち止まって考えてみる機会ととらえてはどうでしょうか。
経済的に働く必要があるから、今の仕事にやりがいを感じているから、職場の仲間といるのが楽しいからなど、人によって仕事をすることの意味や想い、働き方はさまざまです。その想いと治療をどのように両立させるのか、心の声に耳を傾けてみるのもいいのではないでしょうか。

もし、「あんなストレスが多い仕事は続けられない」、「少しのんびりしたい」、「前からやってみたかった仕事をしたい」と思った上で経済的な見通しがつくのであれば、そのときに初めて「仕事を辞める」という決断をしても遅くはないでしょう。

(3)仕事をすることの意味や働き方について、立ち止まって考えてみる

(4)家族や身近な友人にも相談し、協力体制を整える

がんの治療は手術や放射線治療、抗がん剤治療など、治療が長期にわたります。

治療を続けていくためにも、治療と仕事を両立させていくためにも、身近なご家族の支え、協力は欠かせません。ご家族にも一緒に診断や治療方法の説明に同席してもらうなど、病気のことをしっかり理解してもらっておくことが大切です。

特に治療をしながら仕事をするためには、家事をご家族にも分担してもらうなど、できるだけ負担を軽くする必要があります。仕事中は何とか元気な姿を見せられていても、自宅に戻ったとたん、ぐったりしてしまうかもしれません。明日の体力を養うためにも、特に配偶者、子どもも小学校以上であれば、お手伝いをしてもらうなど、家庭内での協力体制を整えておくことをおすすめします。

また、ご家族と同居されていない方の場合は、家事はできるだけ楽できる方法を考えておくといいでしょう。どうしても身体がつらいときは、身近なお友達に助けを求めるなど、一人で抱え込まない、頑張りすぎないことも、仕事と両立させながら、治療を完遂するためには必要です。